SPECIAL / PROMOTION - 2020.1.10

アートの新地平を見据える
2020年代型ミュージアム 
アーティゾン美術館 開館!

1952年開館のブリヂストン美術館を前身とする東京・京橋のアーティゾン美術館が、1月18日に開館する。最新技術を使った空間で古代美術から現代美術までを広く展示する、新しいミュージアムの誕生だ。学芸員に聞いた目指す美術館像、施設の注目ポイントと、開館記念展について紹介する。

聞き手=編集部 文・構成=杉原環樹+編集部 ポートレイト撮影=高見知香

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 現在の株式会社ブリヂストンの創業者である石橋正二郎が自らのコレクションを公開するため1952年に創設したブリヂストン美術館が、新しい美術館として生まれ変わる。2015年より建て替えのために休館し施設を一新、65年以上の歴史を引き継ぎながら活動の幅を広げ館名も新たにスタートする。

 

学芸員にインタビュー:アーティゾン美術館が目指す「これからの美術館」像とは?

 新時代の美術館とはどのような存在であるべきか? 前身時代から大きく幅を広げた今後の展示内容や、新たな方針とシステムに基づく運営の方法までを、学芸課長の新畑泰秀に聞いた。

学芸課長の新畑泰秀

同時代への眼差し

──新美術館開館にあたり、いちばん大きな方針の変化は?

新畑 当館の前身のブリヂストン美術館は、1952年に開館した国内最古の西洋美術館のひとつでした。そこで積み重ねてきた歴史や伝統は当然大事ですが、半世紀経てば時代も変わるもの。今後は来たるべき時代を意識した美術館をつくりたいと思っています。

「アート(芸術)」と「ホライゾン(地平)」を組み合わせた造語の館名は、美術の新しい地平を目指す我々の思いを表しています。「来たるべき時代を意識した美術館像」とは、端的に言うと、現代、すなわちわれわれが生きる時代にもきちんと目を向けることです。

 ブリヂストン美術館は、印象派や日本の近代洋画など近代に軸足を置く美術館として知られていたと思いますが、創設者の石橋正二郎は、じつは同時代の美術にもつねに関心を寄せていた。ブリヂストン美術館の活動の原点は、この時代を切り拓く創造性を紹介することにありました。

 アーティゾン美術館のコンセプトも「創造の体感」です。たんに鑑賞の機会を提供するだけでなく、数々の名作を見る・感じる・知ることにより創造性を体感し、得られたインスピレーションが新たな時代を切り拓く契機となることを期待しています。

──教育普及などの取り組みで新しい展開はありますか?

アーティゾン美術館での土曜講座の様子(イメージ)

新畑 ブリヂストン美術館時代から開催していた国内最古の市民美術講座「土曜講座」は続けます。いっぽう、教育普及部の新設もあり、今後はお子さんや若い世代など、広い世代に楽しんでもらえるプログラムも展開できればと思います。

 ブリヂストン美術館のお客様は年齢層の高い方が多かったように思います。展示は常設展を大事にして、「いつ来ても見られる名画」を意識していました。そうして来館者のニーズに応えることも重要ですが、美術館には日々変化する美術の動きを伝える役割もある。今後は後者にも力を入れ、若い世代にも足を運んでもらいたい。

 その際、上昇傾向にある入館料の負担を考え、学生は無料にしました。また、当館は銀座と日本橋のあいだの京橋というビジネス街にありますので、近くで働くビジネスパーソンの方々にも多く来ていただきたいですね。

 ニューヨーク近代美術館もビジネス街のど真ん中にあり、ニューヨーカーは日常生活のなかで美術を楽しめる。ビジネスの中心地にも文化的な施設が必要だというのは、創設者が強く意識していたことです。

学芸課長の新畑泰秀

コレクションの広がり

──日時指定予約制を導入した狙いはなんでしょうか?

新畑 最適な鑑賞環境の整備です。近年の大型展覧会では「人の頭しか見えなかった」という声もよく聞かれるように思います。私たちには、やはり作品をきちんと見てほしいという思いがあります。日本ではまだまれですが、世界の動向を見ると、日時指定予約制は今後ある程度一般的になるのではないでしょうか。その部分でも未来を見据えて運営したいと思っています。

──注目の新収蔵作品について教えてください。

ヴァシリー・カンディンスキー 自らが輝く 1924 新収蔵作品

新畑 筆頭はヴァシリー・カンディンスキーの《自らが輝く》(1924)です。抽象絵画を生んだ重要な画家のひとりですが、バウハウスで教鞭を執っていた非常に良い時期の作品をコレクションに迎えられました。開館記念展の象徴的な作品のひとつとして公開します。また、バウハウスの同僚であるパウル・クレーの平面作品24点をまとめて収集することができました。クレーの作品は4月から始まるコレクション展示のなかで一挙にご紹介する予定です。

 さらに、印象派の女性画家たちの作品も挙げられます。印象派はよく知られる男性画家のほかに、ベルト・モリゾ、メアリー・カサット、マリー・ブラックモン、エヴァ・ゴンザレスなど優れた女性画家も輩出しました。彼女たちの作品をそろって所蔵している美術館は日本では珍しいのではないでしょうか。その意味でも見どころだと思います。

 加えて、私たちのコレクションとしては新しい分野である芸術家の肖像写真があります。ブリヂストン美術館では基本的に写真の所蔵は行っていませんでしたが、この度、19世紀前半〜20世紀にかけての芸術家の肖像写真700点以上をまとめて収集する機会を得ました。アトリエにいる画家の写真も多く含まれており、これらを作品と併せて展示する意義は大きいと思います。

 また、1970年代から日本の現代美術家を撮り続けてきた写真家の安齊重男さんによる芸術家の肖像写真も約200点収集しました。これも日本の近現代美術史を知るうえで重要な作品になると思います。

──コレクションとともに、企画展の可能性も広がりそうです。

新畑 4月からは美術家の鴻池朋子さんをお招きした当館コレクションとの「ジャム・セッション」展と、キュレーターの服部浩之さん、美術家の下道基行さんらによる第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示「Cosmos-Eggs|宇宙の卵」の帰国展を行います。

 鴻池さんには当館コレクションとの共演をしていただく予定で、ヴェネチア帰国展については初代が日本館の建物を建設寄贈したというつながりがあります。これら現代美術を扱う展示は、アーティゾン美術館にとって本当に新しい挑戦になると思います。

 

展示施設&デザインの注目ポイント:最新テクノロジーを使った館内設備とは?

 新美術館開館に当たって、ハード面でも様々な新しい取り組みが行われた。安全性と快適さを追求した先進的な館内を、展示設備、デジタル化、デザインの3つの観点から紹介する。

 

空調や照明にも新システムを導入 安全・快適な展示環境

タブレット端末で個別に制御が可能なオリジナルのスポットライト

 展示室における最適な照明演出のため、アーティゾン美術館では株式会社YAMAGIWAと共同で美術館用の高品質LEDスポットライトをオリジナル開発。自然光のもとで対象を見ているような高い色の再現性を誇る超高演色照明「VIOLED」を使用し、作品の魅力を最大限に引き出す。

空調吹き出し口になる展示室床面のフローリング目地

 また、展示室の空調にはフローリング床の5ミリの目地を利用した、新たな置換空調システムを導入。床全体から新鮮で安定した空気を緩やかに吹かせ、押し上げた空気を天井から換気する仕組みで、人にも作品にも優しい室内環境を整えた。

ミュージアムタワー京橋の地下に設置された免震ゴム

 さらに、美術館が入る「ミュージアムタワー京橋」では、防災や事業継続の観点から優れた免震構造を採用。非常用発電機や熱源設備を8~9階、美術館展示室を4~6階に置くことで、万が一の災害や停電にも強いインフラが整備されている。

 

アーカイヴ&鑑賞体験をアップデート デジタル化の推進

コレクションの情報にふれられるチームラボの「デジタルコレクションウォール」

 ITの積極的活用に力を入れるべく、2016年にITプロジェクトを立ち上げて、データのオープンな提供を可能にするインフラの検討を開始。作品や展覧会のデータ・アーカイヴを整え、情報提供につなげるクラウド環境を構築した。今後は「創造の体感」という美術館コンセプトのもと、この仕組みを活用した多様な試みを展開する。

エントランスロビーに設置されている「Crystal LEDディスプレイ」

 また、4・5階の展示ロビーにはコレクションを直感的に体感できるチームラボによる「デジタルコレクションウォール」を、1階エントランスロビーにはソニー社製「Crystal LEDディスプレイ」を設置。様々な情報を超高精細で放映することを可能にした。館内はフリーWi-Fi化されており、来館時にスマートフォンとイヤホンを持参すると、音声ガイドや作品解説を楽しめる。

 

インテリアや館内サインにも注目 オリジナルデザインを開発

 来館者に美術館をより楽しんでもらうため、館監修のもとオリジナル家具を制作したのは、内外装を含む美術館デザインも担当した注目のデザイン事務所・トネリコ。カフェや展示室の丸みを帯びた木製アームチェア、展示室に設置される四方から座れる柔らかなフォルムのソファなど、細部まで丁寧にデザインされている。

設計段階から配線計画が行われた光るサイン

 動線の要でありアクセントとなるサイン計画は、東京2020オリンピック・パラリンピックのスポーツピクトグラムを開発した廣村デザイン事務所が担当。極細のLEDを用いたスリットライトでサインが浮かび上がり、軽やかな印象をもたらす。

 

担当学芸員に聞く、開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」見どころ紹介

 アーティゾン美術館の第1弾企画は、新収蔵作品を含むコレクションを2部構成で紹介する展覧会。 本展の企画を担当する教育普及部長の貝塚健に、展示の見どころと注目の作品を聞いた。

企画を担当する教育普及部長/学芸員の貝塚健

「水平」と「垂直」の目線

 開館記念展として1月18日から開催されるのは、「見えてくる光景 コレクションの現在地」展。展示室すべてを使用し、美術館を運営する石橋財団のコレクション約2800点から206点が出品される。そのうち31点は初お披露目となる新収蔵作品だ。

 企画を担当する学芸員の貝塚健は「創設者の石橋正二郎が収集した作品群を出発点とした前身時代から、当館の根幹にはコレクションがある。その歴史を引き継ぎつつもグレードアップさせたことを知ってもらおうと、コレクションを中心とした企画としました。その在り方を通じて、美術館の新しい姿勢を示したい」と語る。

 第1部「アートをひろげる」では近代以降の名作を時代や国にとらわれず並置し、第2部「アートをさぐる」では7つのテーマごとに作品を紹介する。

「ブリヂストン美術館時代は、古代美術から戦後までの各展示室を設け、クロノロジカルな見せ方をしていましたが、新美術館開館にあたり、時代区分を取り払うことを試みました。現代の表現も、古代からの歴史を受け継いだ先に存在するもの。その流れを体感できるのは、幅広い時代の作品を所蔵する当館の強みだと思います。また作品をひとつの地平のうえで一望し、これから新しく現れてくる表現を待つ視点は、『アーティゾン』の語源である『ホライゾン(地平)』という言葉に象徴されるものでもあります」。

 古今東西の美術を見渡す水平の視点と、「聖俗」「幸福」など普遍的なキーワードをもとに作品を掘り下げる垂直の視点を共存させる試みだ。また、新美術館の建築を生かした展示空間にも注目したい。

「緩やかな順路はありますが、あえてさまよいながら見ていただけるような仕掛けをつくりました。6階と5階の展示室は柱がないのが特徴で、展覧会ごとに仮設壁を立てて動線を設定できる、自由度の高い空間です。本展でも、作品を等間隔に配置せず、斜めになっている壁や隙間から見える作品があるなど、方向性はあるものの、見方に制約を与えず自分で選択できるようにしています」。

初お披露目となる新収蔵作品、ウンベルト・ボッチョーニ《空間における連続性の唯一の形態》(1913/1972鋳造)

 コレクションのエッセンスを集め網羅的に紹介する本展は、各テーマがピックアップされていく 今後の企画展を見据えたものでもあるという。新美術館の幕開けを飾る本展で、コレクションの魅力と新たな見方を発見したい。