2028年度に開館50周年を迎える山梨県立美術館。同館が、「新たな価値を生み出す美術館」ビジョン骨子(案)を発表した。
同館は1978年の開館以来、ジャン=フランソワ・ミレーの《種をまく人》を中心に、ミレーやバルビゾン派の作家、ヨーロッパの主要な風景画家、ならびに山梨ゆかりの作家や日本の近現代作家の作品収集に注力してきた。来たるべき50周年に向け、同館では「誰もが豊かさを体験できる、新たな価値を創造する場」を掲げ、「社会において求められる美術館の実現」を目指すという。
9月8日に行われた会見で山梨県の長崎幸太郎知事は、「本来の美術館の活動をさらに充実させる。先進的な取り組みを大胆に実施する」と意気込む。
こうしたなかで肝となるのが、最先端のデジタル技術であるメタバースを活用した実験的な事業だ。運用開始は11月末。この事業では、山梨県出身の現代美術作家による作品展示や現代美術作家とのワークショップなどを実施。館内にVR機器等を導入することで、メタバース体験の場を整備する。将来的にはメタバースにおけるコレクションの活用、物やサービスの販売など、現実の美術館と連携し、ふれあいの場を創出させるという。
同館の青柳正規館長は、「(美術館への)アクセシビリティが一番の課題」だとしつつ、「メタバースという新技術で美術館の新しい役割を果たす。いまは社会全体がシームレスにつながる、ウェルビーイングなものにならなければならない。美術館をシームレスなものとして一般社会につなげていくなかで、メタバースがもっとも有効だ」とその意義を強調。メタバース事業を日本で先駆けて行うことで、「新しい美術館の機能・役割を浸透させるため様々なコンテンツに取り組む。バーチャルとリアルで『良い美術』を伝えていきたい」と語る。
メタバースという言葉は日常的に聞かれるようになってきたものの、日本において美術館分野でこれが本格活用される例はまだない。将来的にはコレクションのNFT化も視野に入れる。山梨県立美術館の挑戦的な取り組みは、美術館業界にどのようなインパクトを与えるだろうか。