2021.4.25

補償なき臨時休館で失われる鑑賞機会。現場からは「大変厳しい」

新型コロナウイルスのパンデミック以降、3度目となる緊急事態宣言が東京を含む4都府県に発出された。これを受け、臨時休館の措置を取っているミュージアムの現場からは悲嘆の声が聞こえてきた。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

臨時休館となった東京国立博物館(4月25日)
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失われた鑑賞の機会

 4月25日に東京、京都、大阪、兵庫に発出された3度目となる緊急事態宣言。これを受け、各都府県では多くの美術館・博物館が臨時休館に入った。

>>まとめ:3度目の緊急事態宣言による美術館・博物館休館情報

 今回の緊急事態宣言で、東京都の小池知事は「人流の抑制」や「日中を含む不要不急の外出自粛」を呼びかける。昨年4月の状況を思い起こさせる状況だ。

 当時は日本全国の美術館・博物館が閉鎖され、「文化の灯火」が消えた。美術館は作品や文化財を守るため、温湿度を一定に保てる強力な空調装置を24時間稼働させているが、加えて各ミュージアムはコロナに対応すべく、予約制による定員の抑制や消毒・検温の実施など、様々な対策を講じてきたことは言うまでもない。

 今回の緊急事態宣言で休館となった東京藝術大学大学美術館准教授で博物館学が専門の熊澤弘はこう語る。「これまで、美術館・博物館は各種ガイドラインに基づく感染対策を行い、展示構成も『密』を避けるための努力を続けてきた。その努力の結果、これまで美術館・博物館から感染者のクラスターが発生しているエビデンスはないと理解している。今回の要請内容が科学的に正当な内容なのか? その科学的根拠を、事後であっても問うべきだと思われる」。

 今回の宣言でミュージアムは休業協力要請の対象とされ、現場は対応に追われた。ある都内の美術館で働く学芸員はこう語る。

 「急な要請により、直ちに休館しなければならなかったため大変困惑している。何より来館を予定していた方への鑑賞の機会が失われたことが残念でならない。展覧会を企画する学芸員としても、昨年に引き続き心苦しく思う」。

臨時休館を告げる上野公園の看板

休館で損失も計り知れず

 休館は経済的なダメージも大きい。とくに大型展ともなると、美術館だけでなく展覧会を主催する事業者にも影響は及ぶ。

 そもそもコロナ以降、美術館では定員抑制のために数十万人を動員するような展覧会はできず、その収益は大きく低下している。そうしたなか、本来であれば大型連休は主催者にとってかき入れどきだった。

 先の学芸員は「今後もこの状況が続くようであれば、見込まれた収益の損失を展覧会入場料にあらかじめ上乗せせざるを得ないことが起きるだろう」と予測する。また展覧会を主催するメディアの担当者も「2週間超の休館で運営側の損失も計り知れない」と悲嘆にくれる。

 東京藝大・熊澤も、「日中の人の動きを抑制するために今回の緊急事態宣言での休館要請が出たと理解している」としつつ、「ゴールデンウィークという多くの来場者が見込まれるタイミングで実施されている点で、じつに厳しい措置だ」とし、補償の必要性を訴えた。

 「発出を要請した側(国、地方公共団体)は今回の措置に対するケアがあるべきだろう。例えば、来場者がなくなる(=入場料を獲得できない)ことへの経済的な損失がまず思い起こされる。今回の措置のすべてをカバーすることは難しいとは言え、補償はなされるべきではないか。いずれにせよ、今回の措置は図書館を含めた社会教育施設にも及んでおり、文化・芸術の活動全般に大きなダメージを与えている。このダメージの回復には時間がかかるため、今後より継続的な対処が望まれる」。

 最初の緊急事態宣言は結果的に1ヶ月半にわたり続いた。今回の宣言の期限は5月11日。休業要請に応じた施設や事業者に報いるためにも、国や自治体は科学的な根拠に基づいた対策を行い、宣言の延長がなされない状況にすることが責務だ。