NEWS / HEADLINE - 2019.8.7

美術評論家連盟が「表現の不自由展・その後」の中止に対する意見を表明。「展示再開できる社会的状況を」

美術評論家連盟が「『あいちトリエンナーレ2019』における『表現の不自由展・その後』の中止に対する意見表明」を発表した。

 

美術評論家連盟のウェブサイトより

 国際美術評論家連盟の日本支部であり、評論家や学芸員、研究者など180名以上が加盟する美術評論家連盟(会長:南條史生)は7日、「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」における「検閲」および展示中止の直接的な原因となった脅迫等について、声明文を発表した。

 声明文では、「行政による作品の撤去や隠蔽は、すなわち、その作品の意味を固定して市民の自主的な判断能力を信用しないこと、市民自ら判断する権利、鑑賞する権利を奪うことを意味します」と展示中止を批判。

 菅義偉官房長官の「補助金の交付決定では事実関係を確認、精査したうえで適切に対応していきたい」という発言についても言及されており、「表現の自由」については「表現の機会を保障することは、必ずしもその表現の内容を追認することではありません。市民ひとりひとりが自分で見て、感じ、考える機会を保障することです」と述べられている。

 なお同連盟は2016年に「『表現の自由について』の基本理念」を発表しており、そのなかで「芸術表現は、それが発表された際の恣意的な見解の差異、および偏向した解釈を根拠に、いたずらに抑制されるべきではない。まして、いまだ明らかにされてはいない解釈への怖れ、未然の配慮、抑止的な予防を理由に、前もって抑制されることは、決してあってはならない」としている。

 今回の声明全文は以下の通り。

 美術評論家連盟は、暴力的威嚇や脅迫による混乱を理由として、また、河村たかし名古 屋市長による、それらの威嚇に同調するかのような展示中止要請も受けて、「あいちトリエ ンナーレ 2019」における国際現代美術展の一部である「表現の不自由展・その後」のセク ションが開始後わずか3日で中止を余儀なくされた異常事態に直面し、それが今後にもたらす影響について深く憂慮します。

 もとより表現活動が暴力や脅迫によって抑圧されることはあってはなりません。今回の 事態の経緯の問題は、こうした暴力行為から市民の活動を守ることが警察を含めた行政の 役割であるにもかかわらず、暴力行為から守るという理由で、その暴力が要求する展示の 中止を受け入れざるをえなくなったという点にあります。

 民主主義とは、個々の市民がそれぞれ自ら判断し意見を表明する能力を持つことを国家および行政が尊重し信頼すること、そしてそれによって市民も国家、行政への信頼を醸成 しうるシステムです。行政がこの信頼関係を放棄することは、この国が恐怖に支配され暴 力に追随する危険な国だと自ら示したことになります。

 今回の事態は、まさに憲法21条に明記された「表現の自由」という民主主義の基本理念が根本から否定されたことを意味しています。今回のように暴力と恐怖に後押しされた要請を受け入れるとき、行政、また政治の正当性、存在理由はいかに確保されるのでしょうか。

 そもそも公的組織が芸術・文化事業を「公」的にサポートすることの意味は、民主主義に基づく憲法の精神、つまり表現や意見の多様性を保障することのはずです。自らへの批 判をも一意見として尊重し、その検討・議論を深める機会を奪わないこと、これこそが公的な文化支援の原則ではないでしょうか。

 行政による作品の撤去や隠蔽は、すなわち、その作品の意味を固定して市民の自主的な 判断能力を信用しないこと、市民自ら判断する権利、鑑賞する権利を奪うことを意味しま す。市民がなにかを知ろうとする健全な好奇心さえ遮断されてしまうということです。こ のような状況では健全な文化の発展など望めません。

 今回の事件に関連して菅義偉官房長官は、国家による補助金交付を精査する、と発言し ています。これは公的支援を打ち切る可能性を示唆し、「政府の方針に不都合な意見、表現 は援助しない」、つまり排除するという、補助金申請者への婉曲な威嚇となってしまっています。繰り返せば、表現の機会を保障することは、必ずしもその表現の内容を追認することではありません。市民ひとりひとりが自分で見て、感じ、考える機会を保障することです。多様な表現と意見があることを知り、そのやりとりに参加する機会を与えることです。

 今回の事件を是認するならば、「あいちトリエンナーレ 2019」に限らず、今後のあらゆる表現活動は委縮せざるを得なくなります。表現の健全な発展は日本国内において期待できなくなり、ひいては、市民の多様な活動を守るという行政機関への信頼そのものを損なわせることになるでしょう。この事件はすでに海外でも報道され、日本国内から発信される豊かな文化活動総体に対する、国際的な信頼を失墜させています。

 以上が、美術評論家連盟が、「あいちトリエンナーレ 2019」の推移を深い憂慮をもって注視する理由です。美術評論家連盟は、当該国際現代美術展の開始当初のすべての展示が取り戻される社会的状況が整えられることを望みます。