オピオイド問題を受けて。ヒト・シュタイエルが「サックラー」を消すアプリを発表

鎮痛剤「オピオイド」の乱用による健康被害が深刻な問題となっているアメリカ。その元凶となった処方箋薬を流通させる米薬品メーカーを経営するサックラー・ファミリーに抗議するべく、アーティストのヒト・シュタイエルがあるアプリを発表した。

サーペンタイン・サックラー・ギャラリー 出典=ウィキメディアコモンズ

 オーバードーズによる死者は約20万人にのぼり、現在でも毎日130人ペースでの犠牲者を出し続ける医薬品、オキシコンチンをはじめとする麻薬性鎮痛薬・オピオイド。これらを販売するパーデュー・ファーマ社を経営するサックラー・ファミリーは美術館、博物館、大学などに巨額の寄付を行う慈善事業でも知られ、「サックラー」の名が冠された施設は世界各地に存在する。イギリス・ロンドンのサーペンタイン・サックラー・ギャラリーもそのひとつだ。

 4月11日よりサーペンタイン・サックラー・ギャラリーで個展「Hito Steyerl: Power Plants」を開催中のアーティスト、ヒト・シュタイエル。ベルリン在住の映像作家・ライターであるシュタイエルは本展で社会的権力と不平等をテーマとした作品を展示中だが、サックラー・ファミリーに抵抗すためのアプリも同時期に発表した。「Augmented Reality(拡張現実)」ならぬ「Actual Reality(実際の現実)」と名付けられたそのアプリは、AR機能によって、ギャラリーのファサードにある「サックラー」の名前を消すことができるというものだ。また、ヨーロッパ内でも比較的経済的格差が大きいとされるギャラリー周辺地域の不平等に関するデータを視覚化するアプリでもある。

 artnetによると、シュタイエルは「この問題に声を上げないということは、美術業界に浸透する犯罪行為を認めることになり、長期的な悪影響を招くことになるでしょう」と発言。そして、サックラー一族と美術機関が長年にわたって結んできた関係性、それらが解消された後の問題について「対処が非常に難しい」と前置きしたうえで、「今回発表した『Actual Reality』は、人々が団結してアートワールドを守ることで“問題は解決した”と言える未来を予測するアプリでもあるのです」と付言した。

 シュタイエルは今回の個展に際し、オピオイド中毒経験者であり、事態改善を訴えるための団体「P.A.I.N」を立ち上げた写真家のナン・ゴールディンにも相談を行ったという。そして、サーペンタイン・サックラー・ギャラリーに対して「サックラー」の表記を消すということ、一族からの資金を受け続けるか否かを公的に表明することを要求。

 これに対し、ギャラリー広報担当者は「私たちのギャラリーは、アーティストとその意見、権利をサポートします」と宣言。サックラー・ファミリーが運営する財団「サックラー・トラスト」や「モーティマー、テレサ・サックラー財団」は現在、各所への寄付活動を停止しているが、「ギャラリーでは今後、一族からの資金援助を受け入れる予定はない」と明言した。しかし現時点で、ギャラリー名から「サックラー」の表記を削除する予定はないという。

編集部

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