舞台は18世紀初頭、フランスとの戦争状態にあるイングランドの王室。そこで、女王と彼女に仕える2人の女性の入り乱れる愛憎を描いた人間ドラマが映画『女王陛下のお気に入り』だ。
ギリシャの奇才、ヨルゴス・ランティモスが監督を務める本作は、2018年の第75回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員グランプリを受賞し、女王・アンを演じたオリビア・コールマンも女優賞を受賞。エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルトといった豪華俳優陣にも注目が集まっている。
2月25日に行われる第91回アカデミー賞では、今年最多の10部門でノミネートされている本作は、見どころのひとつに絢爛華麗な美術、衣裳がある。物語の世界観を表現するために、監督からは時代設定から外れることも歓迎されたというセットの美術。担当のフィオナ・クロムビーは、「時代設定に合ったものも合わないものも混在させた」と話す。広角レンズや360度のウィップ・パン(カメラを素早く水平・垂直移動させる撮影技法)によって、床から天井、部屋の隅々まで堪能することができる。
また、これまでに映画『恋におちたシェイクスピア』『アビエイター』『ヴィクトリア女王 世紀の愛』で3度のオスカー受賞を果たした衣裳デザイナーのサンディ・パウエルは、自らプロデューサーにアプローチして本作の衣裳を担当。パウエルにとっての最大の魅力は、3人の女性を主役として創作できるという希少さであり、17世紀から18世紀への転換期という時代自体がこれまで映画で取り上げられることはほとんどなかったため、パウエルにとってはゼロから衣裳を考える機会になったという。
デザイン上の決め手となったのは色。パウエルは18世紀のシルエットを忠実に取り入れながらも、色を自身の「遊び道具」として、視覚的にはっきりとした中間色とゴールドで構成。主人公・アン女王の肖像画はいくつかあったが、パウエルはほとんど参考にしなかったという。「史料にもっとも近い衣裳は、女王が議会に登場する時に着用していたローブです。かたちとシルエットは肖像画をベースにしながらも細部は完全に独自のデザインで、様式化されています」とパウエルは説明する。また女性キャラクターだけではなく、ニコラス・ホルト演じるハーリーをはじめとする男性キャラクターの衣裳にも、細部までパウエルのこだわりが詰まっている。
世界の主要映画賞の受賞が相次ぐ本作の公開は2月15日。ストーリーを彩る美術や衣裳にも注目しながら楽しんでほしい。