画家・猪熊弦一郎(1902〜93)が戦争を経験したのは40歳前後のときのこと。パリ遊学中に第二次世界大戦が勃発し、帰国を余儀なくされた猪熊は、文化視察の名目で41年に中国へ、作戦記録画を描く従軍画家として42年にフィリピン、43年にビルマ(現ミャンマー)へと、3度戦地へ派遣された。
本展は、猪熊の戦時下の画業に焦点を当てる初の展覧会。猪熊が軍の委嘱で描いた作戦記録画のうち、唯一現存する《○○方面鉄道建設》(1944、東京国立近代美術館蔵 無期限貸与作品)を戦後初公開するほか、従軍先で市井の人々や風景を描いた油彩画、疎開先で描いたデッサンなどの作品を展示する。
また、猪熊自身が撮った写真や、日記、書籍、書簡などの資料も展示。さらに、親交が深かった藤田嗣治、佐藤敬、小磯良平など、他作家の記録画もあわせて紹介する。
戦後、戦争画について自分の思いを語ることはほとんどなかったという猪熊。戦後70年を過ぎて戦時下の芸術が再考されるいま、猪熊が戦争とどう向き合い、その画業に戦争がどう影響したのかを多角的に検証する。