世界中の吟遊詩人やそれらを成りたたせる文化を紹介するみんぱく創設50周年記念特別展「吟遊詩人の世界」が、大阪・吹田の国立民族学博物館で開催される。会期は9月19日~12月10日。
各地を広範に移動し、詩歌を歌い語る「吟遊詩人」は古くから存在した。吟遊詩人というと、中世ヨーロッパにおいて存在した宮廷楽師や大道芸人を指すことが多いが、アジアやアフリカにおいても脈々と息づいてきたことがわかっている。王侯貴族の系譜の語り部、戦場で兵士を鼓舞する楽師、権力者を揶揄する批評家、道化師、庶民の代弁者、ニュースを伝えるメディア、門付芸人など、吟遊詩人は、ときには畏怖の対象であり、ときには社会の縁に追いやられてもきた。
近年、吟遊詩人はポピュラー音楽界や消費社会、文化遺産保護運動とのつながりのなかで、芸能の様式や自身のイメージを変え生き延びてきた。本展はこうした吟遊詩人たちの文化を、それらを育んできた地域の人びとの息吹とともに、資料点数約480点によって伝えるものだ。
特別展示館1階では8名の研究者/フィールドワーカーが、アジア、アフリカの吟遊詩人の世界を紹介。エチオピア高原の吟遊詩人、タール沙漠の芸能世界、ベンガルの吟遊行者と絵語りなど、これらの吟遊詩人を育む地域社会に身を置き、長い年月をかけてフィールドワークを行ってきた研究者たちが展示構成を担当。
また、特別展示館1階のフロア中央にはアリーナスペースを用意。ここでは、瞽女ごぜ、ラッパー、グリオ等をはじめ、様々な吟遊詩人のパフォーマンスを実施。さらに、地域やパフォーマンスの様式を超越した、吟遊詩人同士によるジャムセッションも企画される。
さらに、特別展示館2階の「韻と抑揚、イメージの深淵」セクションの一部では、来場者がカード遊びを通して日本語の韻の初歩を理解したり、詩作に取り組んだりできる体験スペースを設ける。監修者(本展に関わる研究者、吟遊詩人)の目にとまれば「今週の一歌」として選ばれ、SNSを通して紹介される。
また、研究者がどのようなアプローチで吟遊詩人の世界とつながり、対象をまなざし、また逆にまなざしを投げかけられてきたのかを、写真、動画、イラスト等をとおして省察的に示すことも本展の特徴となっている。