1世紀以上にわたるモノクロ写真の物語。「Noir & Blanc」展が香港のM+で開催中

香港のヴィジュアル・カルチャー博物館「M+」で、パリのフランス国立図書館(BnF)と共同企画した大規模な写真展「The Hong Kong Jockey Club Series: Noir & Blanc—A Story of Photography」が開催されている。会期は7月1日まで。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「The Hong Kong Jockey Club Series: Noir & Blanc—A Story of Photography」展の展示風景よりPhoto by Lok Cheng. Image courtesy of M+, Hong Kong

 香港のヴィジュアル・カルチャー博物館「M+」がパリのフランス国立図書館(BnF)が共同で、同館初の写真に焦点を当てた展覧会「The Hong Kong Jockey Club Series: Noir & Blanc—A Story of Photography」を開催している。会期は7月1日まで。

 本展は、2021年にBnFで開催された「Black and White: A Photographic Aesthetic」展をもとに構成されたもので、BnFの写真コレクションをアジアで初めて公開する大規模な展覧会。同館の写真コレクションから250点以上の写真に加え、M+のコレクションからも30点以上の作品が展示され、古くから多くの人々を魅了してきたモノクロ写真を検証する。

展示風景より
Photo by Dan Leung. Image courtesy of M+, Hong Kong

 M+ビジュアル・アート部門のリード・キュレーターであるポーリン・J・ヤオは、本展開幕前の書面インタビューで本展について次のように述べている。「本展は、写真というユニークな媒体の芸術的特質、とくに写真の技術、そしてアーティストが望む効果を得るために様々な紙、フィルム、プリント技術を駆使する方法に注目している。本展は、写真鑑賞がたんなるイメージづくりにとどまらないことを思い出させてくれる。それはまた、写真を物理的な存在感を持つ物質的な対象として理解することでもある。デジタルメディアが普及した現在、私たちはスクリーンやデバイス上で画像を見ることに慣れてしまった。本展を通して、私たちは写真の物質性や、写真が私たちを取り巻く世界を描写するだけでなく、私たちの知覚を高める方法への理解を深めることができる」。

展示風景より
Photo by Lok Cheng. Image courtesy of M+, Hong Kong

 展覧会は、「コントラストを目指して」「光と影」「カラーチャート」といった3つもテーマに分けられ、1915年から2019年までの写真作品を展示。例えば、フランスの写真界を代表する作品のひとつであるアンリ・カルティエ=ブレッソンの《Behind the Gare Saint-Lazare, Place de l'Europe, Paris, France》(1932年撮影、1950年頃プリント)や、スイス生まれの写真家ロバート・フランクの画期的な写真集『The Americans』(1959)における重要な作品のひとつである《Hoboken, New Jersey》(1955年撮影、1977年頃プリント)、そしてエドワード・スタイケン《Gloria Swanson, portrait for Vanity Fair》(1924年撮影、1961年プリント)、アンセル・アダムス《Lone Pike Peak》(1960年撮影、1972年プリント)、エドワード・ウェストン《Pepper, no. 30》(1929年撮影、1971年プリント)などがハイライトとして挙げられる。

イモージン・カニンガム Two Callas 1925, printed ca.1970
BnF, Paris © 2024 Imogen Cunningham Trust

 また、M+のコレクションからは、大きく分けて2つのカテゴリーの作品が紹介されている。ひとつ目は、ファン・ホー(何藩)、チャン・フーリ(陳復禮)、ラン・ジンシャン(郎靜山)、ヤウ・レオン(邱良)など、香港と中国を中心としたアジアの写真における歴史的な重要人物の作品。「私たちは、これらの写真家がBnFのコレクションに含まれていないことを知っており、サロン写真やストリート写真に対する彼らのユニークなアプローチを、同時代に活躍したヨーロッパやアメリカの写真家と並べて展示したいと考えた」(ヤオ)。

ヤウ・レオン Two Women (Gloucester Road) 1961
M+, Hong Kong © Photo Pictorial Publishers Ltd.

 もうひとつは、アジア周辺の近現代の写真家たちによる作品だ。そのなかには、マルク・リブーやリウ・フンシン(劉香成)のような記録写真に取り組む作家や、細江英公、ヴィヴァン・スンダラム、チャン・チャオタン(張照堂)、ナリニ・マラニ、スタンリー・ウォンなど、それぞれの国や地域で写真の最先端を走る日本、中国、香港、南アジアの写真家が含まれている。

ヴィヴァン・スンダラム Sisters with ‘Two Girls’ 2001
M+, Hong Kong © Vivan Sundaram

 また、コロタイプやプラチナ・パラジウムプリント、フォトグラムなど、幅広い写真技法を見ることができるのも本展の特徴だ。1970年代以降、カラー写真の普及にもかかわらず、モノクロ写真が色あせない魅力を持つ理由について、ヤオは次のように語っている。

 「写真というメディアは、明暗という2つの価値観に依存しており、紙に印刷すると『黒』と『白』に見える。これらの色はそれぞれ象徴的な重みを持つが、それらが収束するとコントラストが生まれ、意味と視覚的な力を引き出す。目をそらす色がない白黒のイメージは、より力強く見える。傾向がある。ときに大胆で直接的、ときに柔らかく詩的な白黒画像は、その表現効率の高さからアーティストに好まれている。

 また、世界そのものではなく、世界の解釈を提示するという、距離を置く効果を生み出すことでも知られている。1871年に発明され、20世紀に普及したゼラチンシルバープリントは、その手頃な価格と実践的な特質から、長いあいだアーティストに好まれてきた。このプロセスは自宅やスタジオで簡単に行うことができ、写真プリントは機械的な助けを借りて制作されるにもかかわらず、最終的な結果は手作業であり、このメディウムが工芸品や技術的なスキルと結びついていることを明らかにしている」。

 20世紀初頭のモノクロ写真のパイオニアたちからアジアを代表する写真家まで、香港に行く際にぜひ本展を楽しんでほしい。

編集部

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