京都市京セラ美術館は、その開館1 周年記念展のひとつとして、日本を代表する現代美術家のひとりである森村泰昌の個展「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」を開催する。会期は2022年3月12日〜6月5日。
森村泰昌は1951年大阪市生まれ。1970年代に京都市立芸術大学で学び、85 年にゴッホに扮したセルフポートレート写真でデビュー。美術史における名画の登場人物や歴史上の人物、女優に扮するセルフポートレートを制作することで、ジェンダーや人種を含んだ個人のアイデンティティの多重性を視覚化し、個人史と歴史の交錯点を表現してきた。近年では、ジャパン・ソサエティ(2018)、プーシキン美術館(2017)、国立国際美術館(2016)、アンディ・ウォーホル美術館(2013)、アーティゾン美術館(2021年10月~)などで個展を開催してきた。
本展では、これまでほとんど発表されることのなかった、1985年から撮りためている秘蔵のインスタント写真約500点を一堂に展示。森村にとって私的空間で行われる儀式の痕跡のようなインスタント写真を通じ、35年にわたる活動のバックグラウンドを浮かび上がらせる。
また本展では、1994年に森村が自作の小説を自ら朗読したCD《顔》の音源をもとに、展示室に特設の音響空間を設置。朗読劇として再制作するという試みもなされる。
会場構成を担当するのは、青木淳とともに京都市京セラ美術館の大規模リニューアルプロジェクトを手がけた西澤徹夫。新館東山キューブを「迷宮劇場」へと変貌させるという。
森村にとって京都では98年以来の大規模個展となる今回。森村の私的世界の全貌を公開する初の試みに注目だ。
こうありたいと私が思うワタシ。私ってこういうひとなんだと決めつけているワタシ。私自身ですら思いもよらなかった未知のワタシ。私のなかにはたくさんのワタシがいて、まるでそれは迷宮のように入り組み、あるいは様々なワタシが登場する舞台のようでもあって、ともかく一筋縄にはいきません。
世界を解釈するのも、歴史を紐解くのも結局はこのワタシなのだとしたら、まずはワタシというこの複雑怪奇なスタートラインに今一度立ち戻り、最初からやり直してみたい。
本展は、コロナの時代の閉塞した環境だからこそ見えてきた、なにが大切なのかという問いがテーマです。私にとって、そしてあなたにとって大切な宝物は何? 展覧会を通して捜しあてられたらいいなと思っています。(森村泰昌が本展に寄せたメッセージ)