江戸時代に民衆が生み出した無銘の絵画「大津絵」。主に歴史資料・民俗資料として扱われることが多く、美術館で展覧会が開かれることはほとんどなかった。
そんな大津絵を美術としてとらえ直し、狩野派や琳派、若冲など奇想の系譜や浮世絵でもない絵画として紹介する「もうひとつの江戸絵画 大津絵」展が、東京ステーションギャラリーで開催されている。会期は11月8日まで。
江戸時代初期から、東海道の宿場・大津周辺で量産される手軽な土産物だった大津絵。わかりやすく面白みのある絵柄が特徴で全国に広まったが、安価な実用品として扱われたためか、現在残されている数は少ない。
しかし近代になり、文人画家の富岡鉄斎や洋画家・浅井忠、そして民藝運動の創始者である柳宗悦など、多くの文化人たちを惹きつけるようになる。この傾向は太平洋戦争後も続き、染色家・芹沢銈介らが多くの大津絵を収集した。本展では、こうした近代日本の目利きたちによる旧蔵歴が明らかな約150点を紹介する。
大津絵は型紙や版木押しなどを用い、素早く彩色を施して制作。時代とともに描かれる内容や形式も変化し、はじめは描表装(かきびょうそう)の仏画が中心だったが、その後は鬼や動物、七福神、そして道歌を入れたものも登場した。
本展では、笠間日動美術館がまとめて収蔵する、洋画家・小絲源太郎秘蔵の大津絵を一挙初公開。また、柳宗悦が創設した日本民藝館から52点も展示される。旧蔵者がこだわった掛軸の表装も見どころのひとつだ。名品揃いの大津絵が集結するまたとない機会を、逃さずチェックしてほしい。