10代の頃から世界各地を旅し、大判フィルムカメラを用いて極地方のランドスケープを撮影する写真家の石塚元太良(いしづか・げんたろう)。ドキュメンタリーとアートの境界を横断するような独自の写真表現は、「コンセプチュアル・ドキュメンタリー」と評されている。
現在、石塚の個展が、東京・天王洲のKOTARO NUKAGAで開催されている(~8月29日)。本展では、石塚がアメリカ・カリフォルニア州とニュージーランドで撮影した「ゴールドラッシュ」シリーズの新作を見ることができる。
ゴールドラッシュは、1848年にアメリカ・カリフォルニア州で始まった現象だ。一攫千金を狙う多くの人々が金脈を追って移住した結果、アメリカの経済や人口移動に大きな影響を及ぼした。その後も人々は、世界各地で辺境の地に富を求めて自然を開拓していく。
石塚の探究は、2011年にアラスカ全土に点在するゴールドラッシュの遺物を撮影したことに始まる。石塚がアラスカの地で発見したのは、自身が訪れる街の多くがゴールドラッシュ由来であり、また山道の多くは発掘者たちが山に入った際に拓かれた路であること──つまり現代のアラスカの下には「ゴールドラッシュ」という歴史的地層が横たわっていること──だった。
その後、発祥の地であるアメリカのカリフォルニア州、さらにはニュージーランドへと、異なるときと場所からのアプローチを続けてきた石塚。雄大な山々や川という、およそ150年前とほとんど変わらないランドスケープとは対照的に、かつて栄えた街の建物は廃墟と化している。崩れかけた小屋の埃を被ったテーブルの上には、食器がそのままの状態で残され、当時の人間の営みが目の前に立ち上がるのだという。
石塚は、重層性と時事性をもって歴史を紐解いたときに目の前に新たな景色が開ける感覚を、写真という手段でとらえようと試みる。8×10という大判フィルムカメラを用いるその写真は、大判カメラの特性を生かした緻密なピント調整によって、現実的ではない光景をつくり出している。時空を歪ませるようなそれらの写真は、圧倒的な存在感と驚くべき深度で目前に迫る。そんな石塚の作品は、見る者の新たな視点を拓き、100年前そして100年後という膨大な時間と遠い場所に思いを馳せる機会を与えるだろう。