青野文昭は1968年生まれ。96年から一貫して、廃棄物や拾得物の持つテクスチャーや形態を手がかりに「なおす」ことをテーマとした作品を手がけてきた。近年の主な参加展覧会に「コンニチハ技術トシテノ美術」(せんだいメディアテーク、2017)、「六本木クロッシング2019展:つないでみる」(森美術館、2019)などがある。
そんな青野の個展「青野文昭 ものの, ねむり, 越路山, こえ」が、せんだいメディアテークで開催。仙台の各地や岩手・鍬ヶ崎、東京、沖縄など様々な場所で見出したモノから物語を紡ぎ出し、同館のギャラリー全体を作品化する。会期は11月2日~2020年1月12日。
展覧会タイトルの「越路山」は、青野の生誕地である現在の「八木山」を指す。遠い昔の「ダイダラボッチ」伝説や伊達政宗の存在、そして野球場をはじめとした山の開拓から東日本大震災まで様々な出来事の舞台となった同地は、過去から続く死者の空間として、展示作品のすべての物語の出発点であり本展の帰結点となっている。
現在も宮城県を拠点とし、2011年には東日本大震災で被災した青野。当初は震災をテーマとする意思を持たなかったが、親族の実家である岩手・宮古市を訪れて風景の消失を実感したことをきっかけに、被災物を使用した作品に着手する。本展では初期から現在までの作品とともに、衣服や靴、人型のフォルムなど「人」の存在が強調された震災後の作品も紹介する。
加えて注目したいのは、市民の提供によるタンス数十棹を使った過去最大規模の新作。会場は同作を中心として、一体的なインスタレーションとして構成される。本展では、震災の記憶とともに仙台や東北の現在を見つめてきた青野が「なおす」行為として示す、想起の技法を見ることができるだろう。