ヨーロッパを中心に活躍するアーティスト、マキ・ナ・カムラの個展「まるで、*砂糖が水にだんだんとけゆくのをみていた子どもが、自分の体はそんなふうにお風呂にとけ出さないのにな、とひとり問うてみるかのようなもの展」が、東京・天王洲のANOMALYで開催される。
ナ・カムラは大阪生まれ。愛知県立芸術大学を卒業後ドイツに渡り、デュッセルドルフ芸術アカデミーで、ヨーゼフ・ボイスに師事したイェルク・インメンドルフのもと美術を学んだ。現在はベルリンを拠点に活動を行っている。
ジョルジョーネやニコラ・プッサン、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、ジャン=フランソワ・ミレーなどの美術史上重要とされる画家への言及を明らかにしつつ、ルネサンスから現代までのヨーロッパの絵画を積極的に活用するナ・カムラ。油絵具と水彩絵具を混ぜ合わせるなどの工夫を凝らしたナ・カムラ独自のカラーパレットから生み出される作品群は、光沢や瑞々しさを湛えた美しい色彩や、輪郭のない色面が重層的に配置されたダイナミックな画面、そして身体的所作を連想させるストロークが特徴だ。
その革新的かつ独特な手法は高く評価され、ドイツのほかスペイン、ベルギーなどで立て続けに個展を開催するなど、ヨーロッパを中心に目覚ましい活躍を見せている。現在もベルリンのグーツハウス・シュテーグリッツで個展を開催中だ(~9月29日)。
ナ・カムラは、画集に載っている16~18世紀の絵画や版画作品の画像をスキャンし、それを簡易なレーザープリンターで出力することで現れる色の筋(線)や縞模様を取り入れて制作。これによって現代に至るまでの何世紀にもわたる時間の厚みを絵画に包含させている。
遠近法(透視図法)にも着目し、「地平線」を画家が人工的につくり出したフィクショナルな視覚ととらえるナ・カムラは、それを船乗りの壮大な冒険と重ね合わせ、実際に航海学まで学びながら、新しいイメージを創出するための重要なエレメントとして「地平線」をたびたび描く。
また、キャンバスの周囲に余白を描くことでフレーム自体を絵画に内包し、「完結した絵画であること」「絵画自体をモチーフにしていること」を強く表明。作品タイトルには、一定期間に制作された作品を定義するための略語とローマ数字を採用し、主題を曖昧にすることで絵画を解放しているという。
本展のタイトルの一部となっている「*」以降の一節は、対話集『Aus Gesprächen mit André Fraigneau』の中でジャン・コクトーが引用したピカソの言葉。この一節に含まれるような曖昧かつ豊かなイメージの源泉こそ、ナ・カムラの絵画が描こうとしている場所なのかもしれない。