横浜の実業家、原三溪(1868~1939)をご存知だろうか?
三溪は横浜において生糸貿易や製糸業で財を成し、近代日本の黎明・発展期に経済界を牽引。いっぽうで古美術品のコレクター、自由闊達な茶の境地を開いた茶人、自ら「三溪園」を作庭・無料公開し、書画や漢詩をこよなく愛するアーティスト、そして同時代の美術家を支援したパトロンと、様々な顔を持つ存在だった。
そんな三溪の4つの顔に焦点を当て、5000件を超えるコレクションのなかから、国宝・重要文化財を含む旧蔵の美術品や茶道具約150件を総覧する展覧会「原三溪の美術 伝説の大コレクション」が、横浜美術館で開催される。
本展ではまず、三溪が藤原中期の代表作と評した国宝《孔雀明王像》や、南宋の宮廷画家・伝毛益による吉祥画など、三溪の審美眼を示す名品中の名品を紹介。また3章では、自ら茶室「蓮華院」をつくるなど茶道に傾倒した三溪愛用の茶道具の数々を、その逸話とともに楽しむことができる。
4章には、故郷や蓮を好んで描いた三溪自身の作品も展示。余技の域を超えた、独自の世界観を垣間見ることができる。そして5章では、敬意と慈愛に満ちた三溪のパトロンとしての側面に注目。三溪がもっとも寵愛したという下村観山や横山大観、また安田靫彦らの作品が並ぶ。
なお三溪園(横浜市中区本牧三之谷)では、現在も古建築や茶室と美しい景観を楽しむことができる。三溪の美意識の結晶である三溪園を、本展とともに訪れてみてはいかがだろうか。