ユアサエボシは1983年生まれのアーティスト。2013年にシェル美術賞入選、18年には第10回絹谷幸二賞を受賞。これまで、背景となる時代の歴史を元に詳細な設定をつくり込むことによって、美術史に架空の情報を差し込んで虚実の入り交じるような作品を発表してきた。
今回は、ユアサがかねてから「擬態」を続けてきた「大正生まれの架空の三流画家」であるユアサエボシ(1924~87)に関する資料の公開や、個展の再現というかたちで展覧会が開催される。
本展のメインは、架空のユアサが手がけた「黒い紙芝居」シリーズによる1965年の個展の再現。B4の紙芝居サイズに描かれたコラージュ的な絵画には、少年時代に見た紙芝居や、紙芝居の着色を担当する「ヌリヤ」の仕事をした記憶、そして社会風刺が盛り込まれている。
また、そのほかにも戦時下の子供たちが愛読した雑誌『少年倶楽部』を使ったコラージュシリーズや、戦争裁判における誤訳をテーマとした絵画、うつ病の症状のひとつである独り言を可視化した絵画作品などが展示される。
また、1930年代に前衛画家として知られる福沢一郎の絵画研究所で、シュールレアリスムの影響を受けながら制作したという重要な設定を持つ架空のユアサ。本展と同時期に行われる東京国立近代美術館での「福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ」をあわせて見ることで、架空のユアサの活動をたどるためのヒントを得ることができるかもしれない。
ユアサエボシという架空の作家が本当にいた、という「嘘」を歴史の隙間に忍び込ませたいと語るユアサ。ふたりの「ユアサエボシ」を生き、制作を続ける試みをチェックしてほしい。