世界で10点にも満たないという顔真卿(がんしんけい)の希少な肉筆(墨跡)が見られる展覧会「顔真卿 王羲之を超えた名筆」が、東京国立博物館で開催される。
中国において東晋時代と唐時代は、書法が最高潮に到達した時代。そして、東晋時代の「書聖」と謳われる王羲之に続き、唐時代には虞世南(ぐせいなん)、欧陽詢(おうようじゅん)、褚遂良(ちょすいりょう)ら初唐の三大家が楷書の典型を完成させた。
顔真卿は、初唐の三大家の伝統を継承しつつも、彼らとはまったく異なる美意識にもとに培われた「顔法」と呼ばれる筆法を創出し、後世に大きな影響を与えた。
本展で日本初公開となる顔真卿の《祭姪文稿(さいてつぶんこう)》(758)は、安史の乱の際に、従兄とその末子を失った凄惨な思いを綴ったもの。情感を発露する書風は高く評価され、王羲之の最高傑作と名高い《蘭亭序》(353)に比肩すると言われる。
本展では、「王羲之を超えた名筆」と称される顔真卿の書の本質や人物に迫り、その魅力をあますことなく紹介。また、書の普遍的な美しさを法則化した唐時代に焦点を当て、後世や日本に与えた影響にも注目する。そして、書の歴史における王羲之神話が崩壊する過程をたどり、改めて唐時代の書の果たした役割を検証する。
1000年の時を超え初来日する《祭姪文稿》や三大家の貴重な作品など、それらを体系的に見ることができる本展は、またとない機会と言えるだろう。