美術史における身体性のデッドエンドとその進化を標榜し、フォトショップで再構成した古今東西の画像データをキャンバスに描きおこす今津景。
「Measuring Invisible Distance」(見えない距離を測る)と題された今回の個展は、約2×4メートルの大作《Swoon(気絶)》を中心に、コンスタンティン・ブランクーシの彫刻「眠れるミューズ」などを描いた新作で構成される。
《Swoon》には、進化論の図やルーカス・クラーナハが描いたイヴ、母子像など、「進化と母性」をテーマにしたモチーフが意図的に引用されている。そのほか「身体に描く小さな絵画」として今津が興味を持っている題材のひとつである「ネイルアート」や、近年考察を続けてきた「構造物の輪郭線」、「画中画」として自身のドローイングが取り入れられている。
中央には、コンピュータのモニター上でマウスを動かした軌跡のような「黒い線」が出現。今津はこの「黒い線」を通して、コンピュータ上のデータをフォトショップの「指先(ツール)」で触れるという行為と、巨大なキャンバスに挑む作家の「身体性」との共通点を同時に示そうと試みる。
生命や芸術の歴史を主軸にしながら、「絵画」を思考し制作してきた作家の時間そのものによって構成された新作《Swoon》。本展では、《Swoon》のほかに「パソコンでつくった画像をリピートする際に、どうやって絵の具の予期せぬ表情をアドリブのように付け加えることができるのか」というテーマで制作した一連の作品群も展示。
本展は、国内外で個展やグループ展に参加してきた近年の今津の精力的な制作を総括する機会となるだろう。