プーシキン美術館はモスクワ中心部にあるロシアの国立美術館。1912年に前身であるモスクワ大学の付属美術館が開館し、37年に現在の名前に改称しており、同館には古代エジプトから近代までの絵画、版画、彫刻などが収蔵されている。なかでも、印象派を中心とするフランス近代絵画コレクションは世界屈指。そのコレクションの中から風景画に焦点を当て、「旅」をキーワードに構成された展覧会「プーシキン美術館展―旅するフランス絵画」が東京都美術館で開催中だ。
展示は6章構成。17世紀の画家クロード・ロランらの作品が並ぶ「近代風景画の源流」から始まり、19世紀のカミーユ・コローやギュスターヴ・クールベら19世紀の画家たちによる「自然への賛美」に続く。そして、印象派の画家たちが描く「パリの風景画」、アンリ・マティスやパブロ・ピカソの作品も紹介される「パリ近郊―身近な自然へのまなざし」、アンドレ・ドランが描く南仏の風景画などからなる「南へ―新たな光と風景」へと続き、最後の展示室では「海を渡って/想像の世界」と題し、アンリ・ルソーらが描く空想の風景画が展示される。
とくに注目したいのは、クロード・モネが26歳の頃、1866年に描いたという《草上の昼食》だ。パリ近郊のフォンテーヌブローでピクニックを楽しむ若者たちが描かれているこの作品は、モネが敬愛したエドゥアール・マネが62年頃に描いた同名作品(オルセー美術館所蔵)に触発されて描いたものだという。
本展に学術協力をした東京大学教授・三浦篤の解説によると、本作品のモデルとなっている女性は、当時モネと出会ったばかりで後に妻となるカミーユで、男性はモネの友人で画家だったフレデリック・バジール。当時、モネは複数人のモデルを雇う金銭的余裕がなかったため、親しい友人たちにモデルを頼んでいたという。後に印象派の巨匠となるモネの、青春期の作品だ。
また、当時パリ郊外にピクニックへ出かけるのは、パリ在住の上流階級の人々だった。つまり、描かれている人々の服装からは当時の最先端の流行がうかがえるなど、作品から多くのことが読み取れる。三浦は「初期のモネの傑作。若き日のモネの大変野心的な作品というように位置づけることができると思います」と、印象派に到達する前の本作品についてコメントを寄せた。
本展開幕にあわせて来日したプーシキン美術館館長のマリーナ・ロシャクは、「現代の世の中は攻撃的なこと、様々な危機的なことに囲まれて、そのようなニュースを目にする機会が非常に多いが、そのようなときこそ私たちの周りにあるのは美、美しさです。この風景画を愛でるというのに、いまこそふさわしいときはないと思います」と語った。
プーシキン美術館が誇る至極のコレクションの中から、風景画だけをピックアップした本展。旅をするように楽しみたい。