すべてはアーティストのために。拡大を続けるgallery UGの目指すかたちとは

2001年に東京・銀座に開廊したgallery UG。2020年には天王洲のTERRADA ART COMPLEX Ⅱにギャラリースペース「gallery UG Tennoz」を、今年2月には「gallery UG Osaka Umeda」をオープンさせた。アーティストとともに成長してきたgallery UGのこれまでの歴史とこれからの挑戦を、代表の佐々木栄一朗とスーパーバイザーの今井友美に聞いた。

聞き手・文=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

gallery UG・代表の佐々木栄一朗とスーパーバイザーの今井友美

──まずはgallery UGの25年の歴史を振り返りつつ、ギャラリーとして大切にしていることを教えてもらえれば幸いです。

佐々木栄一朗 美術業界で働くみなさんは、みんなそれぞれの美術観を持っていると思います。私の美術観の原点となったのは、若いときのヨーロッパ訪問で見たアーティストとともにあるギャラリーのあり方でした。ただ絵を売るのではなく、文化を引き継ぎ、後世に残る仕事をするというプライドを感じたんです。もちろん、日本とヨーロッパでは環境も人も違うわけですが、それでも日本でできることはあるはずだと信じてやってきた。それがこの25年だったと思います。

 例えば、gallery UGはアーティストの作品が売れたらその売上をアーティストと折半するのではなく、制作した作品をすべて買い切り、ギャラリーとして責任を持って管理するという方式をとっています。アーティストと二人三脚で歩んでいく。それが正しいと思ってこれまでやってきました。

佐々木栄一朗

 いま、大阪や国外にもギャラリースペースを拡大していますし、新しい社員も増えていますが、アーティストとともに歩むという意識は絶対に大切にしなければいけないところだと思っています。自分たちが正しいと思うことを地道にやり続けた結果がいまなんです。私はアートが好きだから、身銭を切ってでもそれをやりたいし、それが評価されるのは何年後だろうといいのです。

今井友美 私は佐々木さんが弊社を設立した当初から働き始めたので、それこそギャラリーの歴史とともに佐々木さんのやり方を見てきました。もともとはアーティスト志望だったので、gallery UGのアーティストをリスペクトする姿勢はすごい共感できますし、アーティストをサポートするという使命感でいままで続けてこられたのかな、と思っています。

今井友美

佐々木 世界に向けてアーティストを紹介するということも大切な仕事です。ちゃんと世界の格付けに食い込むようなアーティストを、プライマリー・ギャラリーとして発信していく。私たちがそれをリスクを負ってやることで、きっと後に続くアーティストやギャラリーも出てくるはずです。

gallery UG Tennoz

──gallery UGは販売しやすい小作品だけではなく、大型の立体作品なども積極的にアーティストに制作してもらい、展示していますよね。

佐々木 アーティストは、美術館の一室をひとつの作品で成り立たせられるマスターピースを持たなければいけないと思っています。結果的に、その作品がマスターピースにならなくてもいい。その意識をもって制作するというのが大切なんです。

 アートは制作にかけた時間とか、使われた技術の複雑さによって価値が決まるわけではないですよね。でも、日本ではどうしても工芸やデザインと同じように、そういった基準で評価されてしまうことが多い。本当は日本にアートのあるべき受け入れられ方を浸透させていかなければいけないし、それが僕たちの仕事なわけです。そのために、まずはそれをプレゼンテーションするための充分なスペースが必要ですし、だからgallery UG Tennozでは広いスペースを用意しました。

gallery UG Tennoz

──gallery UG Tennozではこれまでの2階のスペースに加えて、新たに3階にもスペースを設けました。こちらではどのようなプレゼンテーションが行われるのでしょうか。

今井 国外からギャラリーを訪れるお客さまが非常に多いということもあり、企画展ではなく常設展として所属アーティストの作品を展示する空間が必要でした。所属アーティストのなかでも、美術館クラスの展覧会で個展を開催できるような実力のある作家の作品を、通年でいつも見てもらえるスペースになっています。

佐々木 アートですからカタログをめくって見せるよりも、まずは実物を見てもらいたいですよね。ここに来ればアーティストの情報を見られる、というかたちで活用できる空間になっています。

 それともうひとつ、アーティストは当然完成したものだけを見せたいと思うわけですが、我々はその制作の過程も見せたいと思っています。エディションのテストケースとしてつくったカラーバリエーションを見せたり、ドローイングや立体作品のためのマケットを見せたり。例えばマケットは粘土の保全性が低いので、多くのアーティストは次の作品のために潰してつくり直してしまうのですが、うちはその費用も負担したうえで保管するようにしています。

gallery UG Tennoz

今井 アーティストがやがて個展をやり、さらに物故作家になったあと回顧展をやるときには、その制作の過程や思考を知るための資料が必要です。私たちはそこまで含めて保管しておきたいと思っているんです。

佐々木 例えば海外のスペースで、アーティストのことをまったく知らない海外のコレクターに作家を紹介するとき、そのアーティストの考え方まで含めて知ってほしいじゃないですか。そのためにも、完成品だけではなく、そこにたどり着く過程まで含めて紹介できるようにしたいんです。

gallery UG Macao

──今年2月には大丸梅田店にgallery UG Osaka Umedaもオープンさせましたが、どういった狙いなのでしょうか。

今井 大阪は現代美術を購入する土壌がまだ発展途上なこともあり、ギャラリーとしては難しい場所ではあると思います。だからこそ、新たなお客さんを見つけられる可能性がありますし、チャレンジする価値があると思いました。スタッフも東京のスタッフを派遣するのではなく、現地で採用しました。コレクターだけでなく、スタッフも現地で育てることで、大阪のアートシーンを変えていけるのではないかと思っています。

──百貨店のなかにgallery UGとして出店するという形態も、チャレンジングですよね。

佐々木 百貨店のなかでgallery UGという名前を出してやることが重要だと思いました。それこそバブル景気のころは、百貨店ができるだけ高く作品を売ってそのあとは知らない、ということが多かったこともあり、百貨店で美術作品を買うということに忌避感を覚える人がいまだに多いですよね。

 だからこそ、ギャラリー名をちゃんと出すことが大事なんです。どんなお客さんに作品を販売したのかを把握して、販売した作品に責任を持つ態勢をつくる。それはプライマリー・ギャラリーとしての矜持です。その条件をのんでもらえたからこそ、今回の出店を決断できました。

gallery UG Osaka Umeda

──本当に多方面に展開していらっしゃるgallery UGですが、一貫したプライドを感じます。それはやはりスタッフのみなさんが「こういったギャラリーにしたい」という明確な目標を持っているからではないかと、お話を聞いて思いました。

今井 目標というほどしっかりしたものではないかもしれませんが「gallery UGを将来的にどういった場所にしていきたいか」と聞かれたら、私は「行きつけの居酒屋的な場所」と答えると思います。言葉は軽いかもしれませんが、気楽に立ち寄ってもらって、gallery UGに行けば何か楽しいことがありそう、刺激がもらえそう、と思ってもらえる場所にしたいんです。

──アート・コレクターの裾野も広がり、若い人が増えたと言われるようになって久しいですし、「行きつけの居酒屋」のような場所の需要は高いでしょうね。

佐々木 いっぽうで、日本人アーティストの作品の値段をもっと上げていかなければいけないことも事実です。現在の価格では、日本では大御所の作家でも、アメリカでは中堅以下の作家と見なされて勝負ができず、埋もれてしまいます。

今井 だからギャラリーも国内で売れる価格ではなく、きちんと海外を見据えた値づけをしなければいけません。ギャラリーとしてそのアーティストの価値を信じているし、これから海外でブランディングしていく、だからついてきてほしいとコレクターに伝えていくことも大切な仕事です。

 それは結果的に、アーティストが若手で初期の価格帯のころに作品を買った人に対しての恩返しにもなります。アーティストの成長の一歩を担えた、それもまたコレクターとしての喜びではないでしょうか。

gallery UG Osaka Umeda

──ほかに、いまgallery UGが力を入れていることはありますか。

佐々木 アーティストの育成です。近い内にアカデミーをスタートさせたいと思っています。機材、素材、アシスタントなどがそろった、アーティストを育てるアカデミーを用意します。アーティストにたくさんのメディウムを触ってもらい、新たな可能性を見つけてもらえる、そんな場所をつくりたいと考えています。平面をつくっているアーティストが立体にも挑戦してみる、例えそれが結果的にはうまくいかなかったとしても、必ず財産になるはずです。

今井 海外に分散していくアーティストを国内につなぎ止める拠点として機能すればとも思っています。日本のアトリエでは狭くて大型作品が制作できない、作品をつくったとしても保管場所がない、といった障壁を取り払うこともギャラリーの役割です。自分がアーティスト志望だったからこそ、こういったものがあったら良かったな、ということを用意したいんです。

佐々木 たしかに外から見ればgallery UGは拡大しているように見えるかもしれませんが、アーティストのために、美術に仕事として関わる人たちのために、やるべきことをやっているだけなんです。50年後か100年後かわかりませんが、それがいつか返ってくるかもしれないし、返ってこないかもしれない。でもそんなことはどうでもいい。美術はそれだけ価値があるし、なによりこんなおもしろい仕事はありませんからね。

編集部

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