アートの名品を手元に。メトロポリタン美術館とアフタヌーンティー・リビングがコラボ
1870年にアメリカ・ニューヨークに創立したメトロポリタン美術館(THE MET)と、ライフスタイルブランド「Afternoon Tea LIVING」(アフタヌーンティー・リビング)のコラボレーションが実現。生活を美しく彩るアイテムが8月中旬より続々と登場する。メトロポリタン美術館のコレクション、そして生活とアートの関係について、美術手帖総編集長・岩渕貞哉が紐解いていく。
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世界でも特別な存在、メトロポリタン美術館
「メトロポリタン美術館、通称『THE MET』(以下、The Met)は世界最大級の美術館のひとつであり、5000年以上にわたる世界各地の美術品150万点あまりを所蔵しています」と、語るのは美術手帖総編集長の岩渕貞哉。国内外のアートシーンに精通する岩渕はThe Metの成り立ちと歴史が、ヨーロッパの美術館と大きく違うことを解説する。
「The Metのコレクションは、王族や貴族のコレクションではなくアメリカ国民の力によってつくり上げられ、いまでもニューヨーカーやアメリカ国民だけでなく、世界中の観光客に感動を与え続けています。国民の熱望によって生まれた私立のThe Metは、当初コレクションも建物もなく、基金での購入や個人コレクターの寄贈など関係者の尽力によってコレクションを増やしていきました。そして現在では、古今東西の美術品が150万点以上も収蔵されるまでに拡大したのです」。The Metが開館した1870年は、国を分断した南北戦争が集結してからわずか5年後のことだ。
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「実際に作品を鑑賞していてもThe Metは特別な空間だと感じます。例えば印象派の作品。パリにあるオルセー美術館やオランジュリー美術館をはじめ、印象派の作品をまとめて鑑賞できる美術館は世界にも多いです。けれども、The Metは先史時代から現代の美術まで、数千年にわたる長い歴史を取り扱っており、印象派の作品もその人類の壮大な歴史の流れのなかでとらえることができる。とはいっても、実際に1日で見切ることはむずかしいですが、その時間の流れを感じながら見ることは特別な体験と言えます」。
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家にアートがあるということ
パリのルーヴル美術館のように王族や貴族が収集していた至宝を礎にしたヨーロッパの美術館が生まれ、ニューヨークのThe Metのように市民が美術館をつくり上げていく時代を経て、現在に暮らす私たちにとってアートはさらに身近な存在となっている。
「美術館にアートを見に行くのももちろん楽しいことですが、好きなアートを選び、手に入れて、自分の家で見るという選択肢を選んでいる人は着実に増えてきています」と岩渕は語る。「私もいくつか作品を持っていて、つねに2〜3点は飾っています。大きな仕事が終わったとき、季節の変わり目など自分のなかで区切りをつけたいときに作品をかけかえる。そのときはやっぱり楽しいですね」。
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また、好きなアートを購入するとき、自分のなかの意外な一面に気づかされることもあるという。「アートを集めるようになって、自分がほしいと感じる作品は、普段仕事で作品を見るときと基準が異なっていると気づきました。自分にとってはまったく意識していなかったことなので、驚きがありました。美術館やギャラリーで心惹かれる作品は様々、たくさんありますが、購入するときはまた別の感覚が働いているようです。この驚いた出来事を通して、新しい自分に出会えたような気持ちになりました。それはみなさんにもぜひ、体感してもらえたらと思います」。
とはいえ、アートを家に迎え入れようとするのは、かなりハードルが高いものだ。けれども、岩渕は美術作品そのものでなくても、アートを生活に取り入れる方法は数多くあると語る。「まずはアートをモチーフに取り入れたアイテムを使ってみるのがいいと思います。簡単なものだと、一筆箋やメモ帳、クリアファイルなどの文房具でしょうか。私は美術館やギャラリーに行ったときは、そこでメモ帳や一筆箋を購入し、数種類を並行して職場で使っています。絵柄があることで相手と言語外でコミュニケーションがとれると思うんです」と語る。また、「自宅に好きなアートがあると気持ちが軽やかになったり、落ち着いたりできます。最初は作品でなくてもいい、アートをあしらった道具を取り入れるところから始めてみてほしいですね。好きなものがそばにある心地よさに気づいたら、アートそのものがある暮らしにチャレンジしてみてほしいです」とも語った。
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今回のコラボレーションでは、カミーユ・ピサロ(1830–1903)の《リンゴと水差しのある静物画》、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(1853–1890)の《アイリス》(1890)、ポール・セザンヌ(1839–1906)の《皿のりんご》(1876–77)がモチーフとして使われている。
「これらの作品は、The Metの開館と同じ時代に描かれたものです。The Metをつくった人々と画家の当時の熱意を同時に感じられるようです。その印象派・後期印象派の作品をモチーフにしたアイテムは、ショッピングバッグやポーチなど、アイテムの用途や大きさによって、トリミングの場所が異なっていますね。見せたいところにグッと寄って大胆に切り取っている」。
「ピサロやセザンヌが描いたりんごは作品を構成するひとつの要素なのですが、トリミングされることで表面の光沢や色合い、形などりんご単体の魅力が引き立つようになっています。デザインの力を感じます。優れたデザイナーが絵のエッセンスを引き出すことで、作品の細部の素晴らしさに気づけるのもよいですね」と岩渕。
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同じく、ゴッホの《アイリス》を使ったタペストリーもその色使いを評価した。「まず、発色が非常に美しいですね。もとの絵はテーブルにおいてある花瓶とアイリスを描いたものですが、花瓶の途中からばっさりとトリミングしていて、植物の生命力あふれる姿を強く印象づけています。たくさんの色の糸を使っているから、タペストリーの端の糸もまたカラフル。一枚あると部屋の雰囲気もがらりと変わりそう」と岩渕。
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複数の作品を組み合わせたアイテムもある。19世紀にアメリカで活躍した石版画家、フランシス・フローラ・ボンド・パーマー(1812〜1876)や18世紀フランスの画家、ジャン・ピルマン(1728〜1808)、16世紀末から17世紀初頭に活動したドイツのデザイナー、アンドレアス・ブレトシュナイダー(1578頃〜1640頃)がそれぞれ描いた花の絵を組み合わせたハンカチやクリアファイルだ。「時代も国も表現の仕方も異なる植物をクローズアップして組み合わせる。とても大胆で面白いですね。濃密な描写もあれば、シンプルな表現もあるし、抽象化された文様もある。見ていて楽しくなってきます」。
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そして、ティーカップと猫を組み合わせたデザインのシリーズはAfternoon Tea LIVINGのデザイナーがとくに力を入れて制作したもの。19世紀にフランスで描かれたティーポット、カップのデザイン画だが、細部をよく見てみると、ティーカップからかわいらしい猫がちょこんと顔を出しているのだ。
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「この猫たちも、印象派の父とも称される画家、エドゥアール・マネ(1832〜1883)、18世紀後半から19世紀にかけてスコットランドのエジンバラで活躍した銅版画家、ジョン・ケイ(1742〜1826)、アメリカで19世紀に活動した石版画家、ナサニエル・カリアー(1813〜1888)といった、様々な時代の画家によって描かれたもの。膨大なThe Metのコレクションのなかから、デザイナーが丁寧に作品をチェックし、セレクトしたものだという。
「一つひとつのポットやカップもかわいらしいし、そこにいろいろな猫が突然あらわれるのがいいですね。The Metは150万点以上の作品があるけれど、そのなかからイメージに合わせた作品や絵柄を選び出すだけでも大変なことだと感じます。こんなに表情の豊かな猫たちに出会えてとてもうれしいです」。
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ティーパーティーシリーズの巾着とセットで購入できる歴代METロゴ入巾着も気になるアイテムのひとつだと岩渕は言う。「The Metは、開館から現在まで150年のあいだにロゴを何度か変えています。現在のロゴは2016年からのものです。美術館に限らず、企業やブランドのロゴの変更は、大きくイメージが刷新されるチャレンジでもあります。けれども、時代の変化を敏感に感じ取りながら活動してきたThe Metにとっては、ロゴの変更も時代に合わせて柔軟に行っていけるものなのかもしれませんね」。
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「こうしてAfternoon Tea LIVINGとThe Metのコラボを見ていくと、本当に素晴らしい試みだと感じました。ふだん、Afternoon Tea LIVINGを好きな方は新しいアートに出会えるし、アートが好きな方がAfternoon Tea LIVINGに出会えるきっかけにもなる。アートを自然なかたちで取り入れられる、またとない機会になると思います。生活のなかで使うものは『さわって使う』ことができるのも大きなポイント。身近にアイテムを置いて、普段使いすることでアートの楽しさに触れてもらいたいですね」。
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ALL PHOTOS ©︎The Metropolitan Museum of Art