ユニクロが2005年に開始したUTGP(2008年までの3回は、UNIQLO CREATIVE AWARDの名で開催)。Tシャツを1枚のキャンバスととらえ、自由な発想でグラフィックやメッセージを表現するデザイン・コンペティションの応募が今年もスタートした。職業・年齢・性別・国籍を問わず誰もが参加できるこのコンペティションの目的は、世界中から才能を発掘すること。
UNIQLO CREATIVE AWARDの名で開催された最初の3回は順位を設けず複数の作品が選出され、デザインをTシャツとして商品化。副賞として賞金が与えられ、最優秀のグランプリにはさらに海外での活動などをサポートする資金が提供された。4回目の2008年からUTGPに名を変えると、開催を重ねながらコンペティションの運営もブラッシュアップされていった。過去のコンペティションでは安藤忠雄や草間彌生、ユルゲン・テラー、デヴィッド・ボウイなど、グローバルに活躍する錚々たるアーティストたちが審査員を務めてきたことも大きな特徴だ。
初期のお題は自由であったが、商品化されたときのコレクションとしての完成度を加味し、UTGP以降は社会の流れやコラボレートすべき企業を厳選しながら「ディズニー」「コカコーラ」「任天堂」「ポケモン」といったテーマを設けて開催されるようになった。そして2020年には、ニューヨーク近代美術館(MoMA)との共同開催で、「DRAW YOUR WORLD」というテーマを設定。審査員をサラ・モリス、ローレンス・ウェイナー、ポーラ・シェアという3名のアーティストが務め、審査員3名によるオリジナルのTシャツも商品化された。
海外からの入選者も家族とともに授賞式に招待し、毎年オリジナルでデザインされるトロフィーやメダルを手に、主催者や審査員などの境界をなくして喜びを分かち合うこともできる。才能を発掘し、UTのTシャツを通して社会にその価値をフィードバックする。“WEAR YOUR WORLD”のスローガンで、Tシャツを通して「着る=自己表現」というメッセージを発信するUTがこのコンペティションを続けることには、大きな意義と価値がある。第1回にあたるUNIQLO CREATIVE AWARD 2005の受賞者で、現在はアーティストとして国際的に活躍する花井祐介に話を聞いた。
Tシャツは意思表示の手段のひとつ
──2005年にUTGPの前身であるUNIQLO CREATIVE AWARD 2005で入賞されました。応募した経緯など、当時のことをお聞かせください。
2003年から04年にかけてアメリカの美術学校に留学し、帰国してから何かクリエイティブな仕事を探していたのですが見つからず、看板屋でバイトしながら『公募ガイド』を見て、いろいろな公募に片っ端から応募していたんです。そこで見つけたのがUNIQLO CREATIVE AWARDで、Tシャツのデザインはやったこともあったので応募することにしました。
──それ以前はどういう機会にTシャツのデザインをしたのですか。
高校生のときにサーフィンを始めて、20代の前半は地元の横浜で鎌倉界隈のサーファーが集まるバーを先輩がつくったんですが、そのお店を手伝ったんですね。基礎の穴を掘って壁を立てたり、全部仲間内でDIYです。そのときに看板やメニューをつくる必要もあったんですが、一番まともに絵を描けるのが僕だったので、いきなり看板を描いて、メニューも知り合いにMacを借りてつくって、オープンしたあともイベントのフライヤーやTシャツのデザインをしていました。それがきっかけでこういう仕事って面白いと思って、バーで働いてお金を貯めてサンフランシスコに留学したんです。
──帰国後に応募されたUNIQLO CREATIVE AWARDですが、どのようにデザインを考えたのでしょうか。
まずTシャツって、着る人にとっての意思表示の手段のひとつだと思うんです。自分が思っていることじゃないメッセージをプリントしたTシャツは着られないし、好きでもないミュージシャンやアーティストのものも選べないですよね。それで緑の生地を選び、“You don’t know how long I’ve been here, do you(どれだけ長く私がここにいたか知らないだろ)?”という木の声と、そこに向かって削ってこようとするブルドーザーを入れました。自然に対するメッセージを込めたかったですし、自分が関わるものは環境負荷を低くしたいといつも思っています。
──最近はSDGsなどもあって環境意識が高まっていますが、2005年というと早いように感じます。
サーフィンをしているとゴミだらけの海に入りたくないですし、海がどんどん変わっていく感じがわかるんです。砂浜は明らかに狭くなっていますし、海水温も下がらなくなってきているし、海藻が全然生えなかったり、ゴミはいくら拾っても無くならなかったり、海に行くと実感するんですよ。
──花井さんのデザインからは、メッセージを表現するメディアとしてのTシャツの可能性も感じられます。
Tシャツは広告にも使われるぐらいインパクトがあるわけだから、環境問題のメッセージも伝わると思いますし、Tシャツをつくるときはその可能性のことは考えますね。
──実際に受賞して、Tシャツが商品化されたときにはどのように感じましたか。
最初にお話ししたバーでつくったことはありましたが、そこでは知り合いのお客さんが買ってくれるだけだったので、自分のことを知らない人が自分のTシャツを買ってくれるというのは嬉しかったですね。普通に店頭に並んでいたので、何店舗か回って見に行ったりしましたよ(笑)。また、デザイン雑誌から取材依頼が来て過去の作品の特集を組んでもらったり、それを見た知り合いから仕事を依頼されたり、いろいろときっかけになりました。
──そこから自身の作風をどのように確立していきましたか。
最初にバーで看板を描いたりしていたときは、60年代のサーフィン雑誌の挿絵や当時のレコードのジャケット、ポスターなどの感じでいこうって仲間内で話していたんですね。リック・グリフィンという、もともとサーフ雑誌の挿絵を描いていて、そのあとサイケデリック文化に寄って行ってグレイトフル・デッドのポスターなどを描いていた人がいるんですけど、最初はそんな文化が好きで、真似して描いていたんですね。でも、いざ自分で仕事をするようになったら真似じゃダメですよね。だからどうやってオリジナリティを出すかは、いまも考えています(笑)。
──花井さんらしさというのはすでにあって、でもそのオリジナルな部分が更新されていっているように感じます。
基本的に飽き性なんですよ。描いているときは思った通りに進むと気持ちいいし、完成すると「できた」って思うんですけど、ちょっと経つと見るのも恥ずかしくなっちゃうんです。クライアントワークだったら入稿したあとに「もうちょっとこうしたほうがよかったかな」と思ったり、作品を展示してから色が気になったりとか。最近はクライアントワークよりもキャンバスに作品を描くことが多くなっていますが、その描き方もいろいろと変わってきて、いままではベタ塗りをしていましたが飽きてきて勢いで色を使うようになったりしてきています。
──花井さんがUNIQLO CREATIVE AWARDを受賞されたあとにUTが立ち上げられて、規模もどんどん大きくなっていますが、UTの面白さはどんなところにあると思いますか。
まず、僕が応募したときより格段にクオリティが上がっていますよね。少し前にバリー・マッギーのTシャツを手にしたんですが、そのときにすごく思いました。最近だと娘が白鳥の絵を描いたんですが、それがめちゃくちゃかわいかったので「UTme!」で実際に注文しました。プリントできるボディも選べて、かわいいTシャツができましたよ。
──今年のUTGPの募集も開始しましたが、応募するクリエイター、アーティストに対してコメントをいただけますか。
僕の時代はどうやったら自分の作品を世に知ってもらえるか、発表することに必死でしたが、いまはSNSにアップするのもいいですけど、つくるのが好きだったらいろいろな機会を見つけて、どんどん動くことも大事だと思います。当時のUNIQLO CREATIVE AWARDとは規模も全然違うでしょうし、いまUTGPでグランプリを取ったらその反響はものすごいはずですよ。
──最後に、花井さんの表現者として目標があったらお聞かせください。
難しいですね、そんなに高みを目指しているわけではないので(笑)。子供の頃から絵が好きで、それでいまはご飯が食べられているだけで幸せなんですけど、絵を描くことで少しでも誰かに影響を与えられれば、こうなればいいのにと自分が考えていることを少しでも伝えられれば嬉しいです。
自分が関わるのはできるだけ環境負荷の低いものにしたいと思って、最近はプロダクトを大量生産するようなクライアントワークをあまりやっていないんですね。でも、もしリサイクル素材やオーガニック素材を使って大量生産すれば、メッセージを伝えて環境への意識を多くの人と共有できて、環境について考えることが世の中で当たり前になるアクションの一歩になると思うので、そういう可能性は考えていきたいと思っています。