リコーダーのような指使いでカジュアルに音を奏でられるヤマハの管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」と、ロードバイクと電動アシストの機能が組み合わされたヤマハ発動機の自転車「YPJ」。「扉の外に出てみよう」というコンセプトでこれらを展示するイベント「Breezin’」が4月9日まで、ヤマハ銀座ビル1Fで開催中だ。
アクリルや偏光シートを多用し、春の光に満たされた展示会場で展示される管楽器と自転車。一見すると共通点が少ないようにも見えるプロダクトだが、2017年の「東京モーターショー」で展示をした際に、「様々な共通点があるように感じられた」と各担当者は話す。今回の「Breezin’」には、製品の魅力とともに、それらの点を紹介する目的もあるという。
|管楽器と自転車、その共通点
――「Venova」と「YPJ」シリーズの共通点にはどんなものがあるのでしょうか?
川田 まずは、どちらも屋外で使用できるという点です。これまでの管楽器の多くは金属製で屋外使用が難しいとされてきましたが、プラスチック製の「Venova」は軽量で丸洗いも可能なため、気軽に外で楽しむことができます。
長屋 「Venova」も「YPJ」も、見た目はカジュアルですが音や使用感は本格的。「Venova」を練習した後にサックスを吹くと、いままで吹けなかった音が出るようになるという意見もあるんです。ですので「YPJ」に乗ることで、バイク操縦へのフィードバックがあるのではないかと感じています。
北山 「YPJ」では、限られた人のための楽しみではなく、あらゆる人に楽しみを提供できることを目指してデザインしました。エントリーユーザーだけではなく、プロレベルのユーザーも新しい体験を得られるものになっているのではないかと思いますね。
|命や人生と並走する「ウォーム・インダストリー」
――ヤマハとヤマハ発動機は異なる会社ですが、「Two Yamahas, One Passion」をテーマに、2000年代初めから共同事業を展開してきました。そうした活動を背景として、今回のように共通点のある製品が生まれたのでしょうか?
長屋 「Venova」も「YPJ」も、同じスピリットを感じる製品が同じ様な時期に開発された。まったくの偶然でしたね。
長屋 よく、「両社は頻繁に打ち合わせをしているんですか?」「交流があるんですか?」と聞かれることが多いのですが、実は両社間で会話の機会はほとんどありません。でも、たまにお互い顔を合わせると同じようなことを考えているんです。
川田 「こちら(ヤマハ)も同じことを考えました」って、会話がシンプルに進む。そこがおもしろいですよね。それは、両社に流れているDNAが一緒だからだと思います。お互いのプロジェクトや交流を通して「自分、そしてヤマハは何を目指しているのか?」と気付けるのも、共同プロジェクトのよさだと感じます。
――共通するDNA、スピリットとは、どういったものなのでしょうか?
長屋 人の豊かさにこだわって、人間の成長を支援して貢献していくというポリシーだと思います。あとはシンプリシティでしょうか。楽器も自分の自己表現の媒体ですし、乗り物も、乗り物自体が消えてしまうような人馬一体の状態をつくりだしていくことが大切だと考えています。
川田 2015年の共同プロジェクト「project AH A MAY(プロジェクト アーメイ)」では、両社のデザインフィールドを交換し、楽器とモビリティを組み合わせたプロダクトを発表しました。そのとき、両社のプロダクトではいずれもヒューマンスケールが大切にされ、申し合わせたかのように、木質とレザー、金属が同じようなバランスで成り立っていた。ヤマハでは「Warm Industry(ウォーム・インダストリー)」と呼ぶこともあるのですが、そうしたあたたかみのある素材感も、共通していると思いますね。
長屋 ヤマハ発動機のモビリティは「命と一緒に走っている」といった意識があります。そしてヤマハの楽器は「人生と一緒に走っている」と思います。大切な発表会やコンクールなど、その一瞬と人生を背負っている。それは命と何も変わらないわけです。その重みを預けられるだけの器であるか、それは共通のスピリットだと思いますね。ヤマハ両社の製品はすごくシンプルで軽量なんだけど、重いんです。
|「道具」を超えて
――「Venova」とYPJを、どのように日常に取り入れてしいですか?
川田 相棒として、長く一緒にいられる存在であってほしいですよね。
辰巳 そうですね、電子楽器は絶えず開発されていますが、アコースティックの楽器では、約170年前のサクソフォーン(サックス)が最新なんです。「Venova」はそれに続きたい。私はグッドデザイン賞のスピーチで「100年後に“ロングライフデザイン賞”を獲りたい」と言ったのですが、生まれたばかりの「Venova」が、これからの文化をつくっていく未来を夢見ています。
長屋 オートバイをある種擬人化してニックネームをつけている人は結構多いのですが、「YPJ」もそんな存在になるのではないかと思っています。それって、「道具」の認識を超えないとそうならないですよね。そして、命や人生と一緒に走るには、それくらいの人格を持たせないといけない。ということは、やはり私たちの使命は「道具」を超え、人の成長や幸せに貢献するための「相棒」をつくり出していくことなんじゃないかと思っています。