「分断をあからさまにしてしまうコロナ禍は、予測できませんでした。でも、そもそも政治や人種など、さまざまな場面で生まれている分断が深まっていると感じていました。4年ほど前から『ものとものが連なろうとすると線が生まれる』という構想があり、それをこの状況のメタファーとして表現しようと『地平線』というテーマを考えました」。
画面を上下に分割した「地平線」シリーズを手がけた小村希史は、「絶望を描いているわけではないです」と前置きしたうえで、このテーマを取り上げた経緯をこう説明する。そして、国旗や砂漠の風景写真、地図などをもとに具象的なイメージを描き、ペインティングナイフやスキージーで取り去ることで、抽象的な画面をつくりあげる。そこにはもととなる具象的なモチーフの色は反映されているものの、そのイメージは残っておらず、本人も以前のイメージをあまり覚えていないという。完成した画面のイメージそのものを重視しているのだ。あえて最初にモチーフを設けることで、そこから表現が広がることに絵画の自由を感じているのだという。
個展会場には、「地平線」に寄り添うようなアンビエントな音楽が流れている。もともと音楽をやっていた小村は、バンド活動のために高校卒業後にアメリカのシアトルで暮らした。そんなバックグラウンドから、展覧会BGMも自ら手がけているのだ。
「いまも音に携わっていたいと思っていて、展覧会ごとに『End Loop』という音源をつくっています。音楽は時間芸術ですから、それを止めてしまって絵のような効果を生み出すことができないかと考えて試行錯誤しています。音を絵に近づけていく感覚です。音楽が絵を見る邪魔にならないように、バランスがうまくいくことを狙っています。極力音数を少なく、『オトスク』というジャンルができないかと思ってるんですよ」。
笑いながらそう話す小村。「地平線」の制作プロセスから、「(筆に)油絵具をつけて、キャンバスに塗っていく。その作業は、ものすごく前向き」だと絵画に惹かれる理由までを語ってくれたインタビュー動画では、彼が制作したBGMもあわせて楽しんでほしい。
※「OIL by美術手帖」で作品をご購入の方に、8cmシングルに4曲が収録された音源『End Loop』をプレゼントいたします(限定50部、非売品。発送時に同封)。