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コロナ禍明けのアートマーケットはどう変わったのか? フィリップスのスターオークショニア、ヘンリー・ハイリーに聞く

英国の老舗オークションハウス・フィリップスのスターオークショニアであり、同社の主要なイブニングセールを担当し数々の記録的な数字をつくり出してきたヘンリー・ハイリー。12月に森美術館が主催したガラディナーのチャリティーオークションのために来日したハイリーに、コロナ禍明けのアートマーケットの傾向などについて話を聞いた。

聞き手=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

ヘンリー・ハイリー 撮影=編集部

──今年のアートマーケットを振り返ってみて、どう思われますか?

ヘンリー・ハイリー(以下、ハイリー) 大量のアートが市場に出回っています。市場規模は2020年、2021年に比べると若干落ち着いているかもしれませんが、おそらくパンデミック前のレベルに戻っているでしょう。とくに若手アーティストの市場では投機的な取引が落ち着いており、健全になっています。

 11月のニューヨークのオークションを見ると、すべてのオークションハウスで合計約21億ドルの売上高を記録しており、オークションシーズンとしては過去2番目の規模です。より控えめでバランスのとれた市場になっていますが、まだまだ膨大な量の美術品が取引されているのです。

──今年のアートマーケットで印象に残った出来事やイベントはありますか?

ハイリー 今年11月のニューヨークオークションでは、フィリップスにとって史上2番目の落札額となる1億5500万ドルを記録しました。そのうち、トリトンコレクション財団のイブニングセールは約8500万ドルを達成し、大きなハイライトになりました。また、ジャデ・ファドジュティミなどの若手アーティストのオークション記録を更新し、エキサイティングなアーティストの需要はまだ高いことを証しています。

11月14日にフィリップス・ニューヨークで開催されたイブニングセールの様子 Courtesy of Phillips

 フィリップスは今年、香港に新しいアジア本社を開設しました。中国で様々なことが起こっているにもかかわらず、香港はまだ主要なマーケットプレイスとしての位置を維持できています。日本をはじめアジアからは新しい入札者がまだ大量に出てきており、すべてのオークションハウスはアジアに投資し続けていますね。

 また、今年は多くのアーティストが再発見され、とてもエキサイティングな年でもありました。とくに1950年代から70年代にかけて活躍し、キャリアにおいてあまり脚光を浴びなかったアーティストや女性アーティスト、マイノリティ・アーティストなどを再評価する動きは活発です。

──今年のオークション市場や作品の傾向について、何か変化はありますか?

ハイリー 審美面においては少し変化が見られていると思います。戦後美術のコレクターのなかでは世代交代が進み、そのコレクションや財産が子供たちの世代に移っているので、美的感覚が少し変化していると思います。

 また、パンデミック中のような好景気を経験したことで、人々はより「技」に回帰しており、質の高い絵画を求めるようになったと思います。派手な作品は好まれなくなり、細部までこだわった、少し控えめな作品に注目が集まるようになりました。

11月フィリップス・ニューヨークのイブニングセールで3480万ドルで落札されたゲルハルト・リヒター《Abstraktes Bild(636)》 Courtesy of Phillips

──コレクターはより保守的になっているということでしょうか?

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