片山真理はいまもっとも注目されるアーティストのひとりと言っていいだろう。海外でコンスタントに個展が開催され、2019年にはヴェネチア・ビエンナーレのメインプログラムに出展、20年から21年にかけては「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」での個展開催をはじめ、廈門、名古屋、桐生での展覧会に参加。今年1月から木村伊兵衛写真賞受賞作品展や、東京・銀座の資生堂ギャラリーでの6人の女性アーティストにフォーカスした「アネケ・ヒーマン&クミ・ヒロイ、潮田登久子、片山真理、春木麻衣子、細倉真弓、そして、あなたの視点」展が開催され、現在は片山の育った群馬県の太田市美術館・図書館で「HOME/TOWN」展にも出品中だ(2021年2月11日~5月30日)。
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」での個展を含め、展覧会の出品作はいずれも2016年の作品を中心に構成されている。
このことからも、この年は片山にとって非常に重要なターニングポイントを迎えた年だったように思えてならない。しかも、その前年の2015年初頭、初個展「you’re mine」を終えた直後のあるインタビューのなかで「もう自分の『普通ではない』身体に関する作品も、セルフポートレイトも、しばらくは積極的につくるつもりはない」と語っていたのだ。
2016年、彼女のなかにどのような変化があったのだろうか。
「この年の最初の展覧会が森美術館の『六本木クロッシング』だったんですね。それと同じタイミングで3つの展示(新宿伊勢丹のショーウィンドウ、伊藤忠青山アートスクエアでの『MAZEKOZE Art Ⅱ』内のグループ展、3331 Arts Chiyodaでの個展)が決まりました。『六本木クロッシング』にはオブジェ作品をすべて出そうということで話がまとまっていたのですが、そうなると次の3331 Galleryの個展に何を出そう?ということになって、そのタイミングでちゃんと写真に向き合おうと思いました。オブジェがなくなったら自分のなかに何が残るだろう、と。そこで生まれたのが『shadow puppet』(2016)です。それまでは、カメラはレースやビーズと同列のものでした。あくまでオブジェが主役で、それらを説明的に見せるための材料として写真があったけれど、写真を作品にしていたことに気がついたのが2016年でした」。
次いで、東京藝術大学大学院の修了制作を乗り越えられるものを、との想いで当時と同じ造形要素、手法で制作した「shell」と「beast」、実家のある群馬に拠点を移したことをきっかけに生まれた「on the way home」、初めて他人の身体性を取り入れた作品「bystander」という、その後の片山のシグネチャーともなっている5つのシリーズが2016年に生まれている。