──「NIGHT FISHING」は、ミュージシャンやスタイリスト、写真家など、ジャンルを超えたクリエイターが集う、ジャンル横断的なイベントです。サカナクションのメンバーは、クラブイベントの出演者としてはもちろん、オーガナイザーとしてパーティー全体の企画を手がけられています。今回、なぜこのような催しを行うことになったのか、そのきっかけや背景をお聞かせください。
今年、僕らはデビュー8年目を迎えました。おかげさまで一定の評価をいただくことができたのですが、自分たちがメジャーになっていくにしたがって、そこでは良い音楽をつくる実力とは別の要素が多く求められることを感じたんです。
衣装や映像、マスメディアへの出演、さらにはマネージメントまで、音楽の周りにある様々な領域との関わりを引き受けていくことは、上を目指すためには必要なのですが、場合によっては、自分たちの音楽づくりを不自由なものにしてしまう可能性もある。であれば、それらとの関わりも自分たちの表現の一部として成立させる方法はないかと、ずっと考えてきました。
最初はそれを、音楽に近いところでやろうとしていたんです。たとえば、2014年1月に発売した「グッドバイ」という曲は、Aメロの一節を伝えたいがためにつくった曲でした。
こちらの意図としては、テレビに出て「探してた答えはない/此処には多分ないな/だけど僕は敢えて歌うんだ/わかるだろう?」という一節を歌うことに意味があったのですが、いまいち伝わらなかった(笑)。曲の良さとかだけが評価されたんです。
音楽というフォーマットの中だけで、現代アートのように多面的で隠喩的な表現をするのはなかなか難しいな、と感じたんです。
──テレビで音楽を聴いて楽しむという環境では、そうした視点は理解しにくいのかもしれませんね。
それに、音楽に関わるミュージシャン以外のクリエイターの存在って、あまり認識されていない気がしていて。ミュージックビデオ(MV)を出すたび「山口さんすごい、こんなMVをつくって」と言われるのですが、「いや、これをつくったのは自分じゃなくて◯◯監督さんで、照明は◯◯さん、カメラマンは◯◯さんなんだけどなあ」と感じるんです。裏方を評価する視点がないのは不自然ですね。
冒頭の話を反対から言うようですが、僕自身、デビューしていろんなクリエイターと関わり、「音楽って、こんなにも音楽だけじゃないんだ」と感じたんですね。大げさかもしれないけれど、音楽は一種の総合芸術なんだと。
──なるほど。さきほどの歌詞のお話は、音楽やミュージシャンを取り巻くそうした環境のことを音楽の中で伝えようとしたけど、あまり上手くいかなかったという話なんですね。
ええ。でもそんななか、クラブという場所のあり方を使うことができるのではないか、というアイデアが生まれました。それが、今回のイベント「NIGHT FISHING」につながっています。
音楽好きな人たちが音楽を目的に集まりながら、そこで自然と音楽以外のものも吸収できる、普段触れないような感覚に気づくことができる、そんな場を設定したらどうか。僕らが普段お世話になっているクリエイターの方たちの仕事や、彼らとの関わりを、音楽と結びつけてあらためて提示することで、音楽の新しいかたちを、もうひとつ増やせるのではないかと考えたんです。
多くのクリエイターが交わる空間
──今回のイベント出演者の多くは、今年1〜2月にNHKで放送されて話題になった番組「NHKスペシャル:NEXT WORLD 私たちの未来」に参加された方たちですよね。この番組は、今から30年後の2045年という未来の姿を検証するものでした。
そうですね。僕たちは、未来のライブ風景を見せる場面のバンドとして登場しました。そこでは衣装が紫外線で光ったり、お客さんがアバターとして参加したりという近未来を感じさせる演出がされたのですが、僕の中であの放送は「新しさ」よりも、「こうした様々なことを含めて音楽なんだよ」ということが、すごく明確にわかる放送であったという点で良かったんです。
ライゾマティクスの真鍋大度さんが演出を、アンリアレイジの森永邦彦さんが衣装を手がけ、そのなかで僕らが音楽を生放送で演奏する。もしかしたら、ただのテレビの一番組として見た人もいるかもしれないですが、裏方の大変さがとてもよく感じられるものになっていました。
なので、この番組に興味を持ってくれた人が集まるような場所、あそこに関わったクリエイターがどんな活動をしているのかが集約されたような場所がつくれたらいいな、と思ったんです。
──このイベントの具体的な内容は、どのように進めていったんですか?
最初に、スタイリストの三田真一さんに相談をしました。音楽イベントの部分はサカナクションだけでも構想を立てられるけど、それだけでなく、そこに集まった人たちがびっくりする展示がしたいと話したんですね。
そこで三田さんから「グッズとして買えるけれど、きちんとした展示物でもあり、表現でもある服をつくろう」というアイデアをいただきました。
その服というのは、僕が信頼しているカメラマン・奥山由之くんの写真を取り入れたものになっています。具体的には、僕らの「バッハの旋律を夜に聴いたせいです。」という曲のミュージックビデオを手がけていただいた田中裕介監督に彼の写真をリミックスしてもらい、衣装のパターンを三田さんのチームにつくっていただきました。
これを「写真を纏(まと)う」というテーマで展示するのですが、実際に購入をすることもできます。グッズを買う感覚で、無意識のうちに展示物でもあるアート作品を手に入れてしまう、というかたちにしました。
──様々なレイヤーが絡み合う場所なんですね。
こうしたイベントを繰り返して行っていくことは、その場所に行かないと体験できないものがあると知ってもらう意味でも、すごく重要なことだと思います。そこに行くと、今回協力してくださったようないろんなクリエイターに会えて、場合によっては話すこともできるという場所。
大げさに言えば、様々な人々が出入りをして交流をした、アンディ・ウォーホルの「ファクトリー」のような空間になってくれれば、と考えているんです。
たとえば、サカナクションの音楽には興味がないけど、奥山くんの写真を目当てに来た人が、サカナクションに興味を持ってくれるかもしれない。もちろん、その逆もあり得るでしょう。あるいは、真鍋さんとふと立ち話ができたり。そんな予期せぬつながりが無数に起こる場所は、僕の中ではとても東京的なんです。東京って、じつはすごくローカルなシーンの集合体だと思うから。
音楽以外が与えてくれる、音楽の魅力
──とくに若い人には、いろんな発見や出会いがありそうですね。
最近の若い人たちを見ていると、見た目はすごく洗練されているのに、好きな音楽を聞くと「えっ!? なんでその曲が好きなの?」と思うような場面がよくあるんです。ファッションは好きだけど音楽はあまり聞きません、みたいな。そのバランス感覚の崩れって、おそらくSNSの影響だとも思うのですが。
──好きな情報にだけ触れられるから、視野が偏りやすいと。
そういう状況を、具体的な体験を通して広げることができるんじゃないかと思うんです。衝撃的な体験をさせることで、音楽以外の領域へと興味を持ってもらったり、音楽の多面的なあり方を理解してもらったり。そんな新たな体験を提供したいんですね。
アーティストの会田誠さんのようなアナーキーな作品も、それをいきなり見せたら拒絶されてしまうかもしれないけれど、出会い方を変えることで、そのアナーキーさの中にあるエンターテインメント性を感じてもらえると思うんです。そんなオルタナティブな回路をつくれたらいい、と考えています。
──その試みを、美術館のようなかしこまった場所ではなく、今回のクラブのように肩肘張らずに行けるスペースでできるのはすごくいいですね。
実際に会場は、ものすごく入りやすい場所になると思います。とにかく体験してもらうことが、とても重要ですから。いま、ネットの画像や文章だけを見て、作品を経験した気持ちになってしまうことって多いですよね。
でも、例えば北海道に住んでいた神田日勝という画家がいるのですが、彼の絵は写真で見るのと生で実際に見るのとではまったくインパクトが違うんです。この作家は、ベニヤ板に描いていたりしますが、作品の前に立つと、絵の凄さと同時に、彼自身の衝動が伝わってきて、とても感動するんですね。
そうした音楽以外の表現から受けた感動が、じつは僕らのやっている音楽の源にもなっているという経緯までもが、お客さんに伝わってほしいなと思います。自分が興味のあるものを、音楽が好きな人たちと一緒に楽しむ。
同じ空間で同じ時間を共有しながら、新しい音楽の楽しみ方づくりに、チャレンジしたいんです。