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INTERVIEW - 2019.6.2

服を選ぶように作品を選ぶ。アートコレクター吉野誠一インタビュー

“現代美術コレクターの自宅”がコンセプトのカフェレストラン「SUNDAY」。そのプロデュースを手がけるのが、自身もアートコレクターである吉野誠一だ。作品の収集にとどまらず、なぜ「SUNDAY」 をはじめとした「作品のある空間」をつくり、美術を媒介としたコミュニケーションを築いているのか。様々なかたちで美術と向き合う吉野に、作品収集の魅力について話を聞いた。

撮影=shuntaro(bird and insect ltd.)

自身がプロデュースするカフェレストラン「SUNDAY」にて。インタビューに応える吉野誠一

関係性の中の美術に惹かれて

——美術に興味を持ったきっかけを教えてください。幼少期から美術が身近な環境で過ごされていたのでしょうか?

 いいえ。幼少期、両親に連れられて美術館に行くことはありましたが、特別な美術教育を受けていたわけではありません。大人になってからも、人並みに展覧会には行っていました。しかし、当時美術館で観ることができるものは、誰もが知っているアーティストの作品で、自分にとっては退屈というか、あまり興味の対象にはなりませんでした。ただ、デザインや建築は好きだったので、関連する展覧会に行ったり、雑誌を読んだりしていて、それが美術への興味につながっていったと思います。

——デザインや建築が美術への入り口となる、具体的な出来事があれば教えてください。

 あるとき、建築やインテリア雑誌で紹介されている空間の中に、家具だけではなくアート作品があることに気づいたんです。自分が好きな家具を買っている人は、自分が好きな建築家の設計した家に住んでいて、そこには当時展覧会で紹介されているような、印象派をはじめとした絵画が飾られていて‥‥。それまで、美術、建築、デザインというのは、まったく違う世界の話だと思っていたのですが、実は一緒なのかもしれない、と感じ、面白いな、と思いました。

——美術単体ではなく、デザインや建築との関係性の中にある美術に対し、面白さを見出されたのですね。

 はい。27、28歳くらいのときに興味を持ちはじめ、アートギャラリーにも足を運ぶようになりました。

「SUNDAY」店内。隣接するギャラリー「CAPSULE」で個展を開催しているアーティスト・山根晃一の作品が飾られていた

石ころも作品も"好きなものを集める"

——現在はアートコレクターとしても美術と付き合っていらっしゃいます。鑑賞者から購入者になるというのは、ハードルが高いことのように感じるのですが、吉野さんにとっては自然な流れだったのでしょうか?

 そうですね。デザインや建築に触れていたことで、家具も美術作品も、自分にとって心地のよい空間をつくるための要素として、同等のものだと感じました。鑑賞するだけではなく、そういった美術の在り方に面白さを感じていたので、作品を買うこと自体に抵抗はありませんでした。

——鑑賞するだけではない「美術」に魅力を感じられたのですね。

 はい。僕は幼少期から、何かを集めることが好きでした。綺麗な石ころを集めたり、僕の世代だとみんなスーパーカー消しゴムというのを集めていたり、コインだったり切手だったり......アート作品というだけで特別なイメージを持たれてしまいますが、僕にとってはどれも同じで、好きだと思うものを集めている感覚です。

 また、僕自身は現代美術だけではなく、古美術を見るのも好きですし、古美術として扱われないような古道具も見ていいな、と思ったら購入します。そういうことに対して「なぜ買っているんですか」と聞く人はあまりいませんよね。「何を」買うかが違うだけで、「買いたい」と思う気持ちに差はありません。もちろん、価格の違いはあるので、実際に購入するとなると、スーパーカー消しゴムよりアート作品の方がハードルは高いです(笑)。しかし、気持ちの部分では同じです。自分がいいと思ったものを買っている、というシンプルなことです。

「CAPSULE」にて。山根一晃の個展「パースペクティブ / 結節点 / 行為あるいは作用として」展示風景

——最初に購入された作品はどんなものだったのでしょうか?

 中村哲也さんの《ビット》という小さな立体作品です。ギャラリー小柳で作品を見て、購入しました。中村さんは“動かないけど速いものをつくる”というコンセプトで作品をつくっていて、そのコンセプトが面白いな、と思いました。

——コンセプトに惹かれて購入されることが多いのでしょうか? 作品を購入するうえでの決め手があったら教えてください。

 唯一、ルールのようなものがあるとしたら、現代美術に関しては日本のアーティストの作品しか購入していないことでしょうか。絶対的なルールとして決めているわけではありませんが、日本のアーティストであれば、彼らのアーティストとしての歩みを学生の頃から追うことができます。出会った頃はまだ学生だったアーティストが、いつの間にかギャラリーに所属していて、展覧会で作品を発表し、美術館にコレクションされるまでに至ることもあります。自分がいいと思ったアーティストの活躍を間近で見れるのは嬉しいことなので、購入するのであれば日本のアーティストの作品にしたいと思っています。ビジュアルだけで作品を選ぶこともありますし、フラットに写真でも彫刻でもなんでも、いいな、と思ったものを買います。

——フラットに「いいな」と思う作品を購入されている、とのことですが、吉野さんが「いい」と思われる作品はどんなものなのでしょうか?

 おもちゃみたいな、子供が集めるようなものが好きです。日本のアーティストは比較的そういった作品をつくっている方が多いと思います。小さいものを集めて大きくしていったりとか、描いているものがごく身近なものだったりする作品がなんとなく多い気がしています。

「SUNDAY」店内

「観る」「手に入れる」、そして「集う」

——プロデュースされているカフェレストラン「SUNDAY」は、“現代美術コレクターの自宅”がコンセプトとのことですが、お店をつくろうと思ったきっかけを教えてください。ご自身がコレクションを重ねていくなかで、作品を披露する場所の必要性を感じられたのでしょうか?

 海外では、コレクターが自分の家に人を呼んで、コレクションを観ながらみんなで食事をしたりといったことがごく普通に行われています。日本でもそれに近いことができたらと思い、カフェレストラン「SUNDAY」とギャラリースペース「CAPSULE」をつくりました。自宅に人を呼ぶのもいいですが、ゲストに気を遣わせてしまうこともありますよね。カフェといった誰でも気軽に来れる場所をつくることで、美術に関わる人たちがふらっと立ち寄って、日常の中で美術の話や情報交換をしてもらえたら嬉しいと思っています。

 ちなみに、「SUNDAY」や「CAPSULE」で展示している作品は、ギャラリーがついているかどうかにかかわらず、美術館でも展示できるようなアーティストに展示をお願いしています。僕自身がコレクションしているアーティストもいますし、これからコレクションしたいと思っているアーティストもいます。

吉野誠一

——貸しギャラリーというかたちではなく、吉野さんご自身が展示の企画をすることで、気軽でありながらも本格的なアート作品と出合える場所にしているのですね。

 はい。展示以外に、お花のお稽古や落語会といったイベントも企画しています。お花も落語も、“生活を豊かにする”という視点では、美術と同じものだと思っています。イベントに参加して、そのままご飯を食べて......といったことが「SUNDAY」ではできるので、一種のサロンのような場所になっています。

——サロンのような場所、とのことですが、吉野さんが中心となっていることで、コレクターの方々が集まる場になっているのでしょうか?

 コレクターの方もいらっしゃいますが、それだけではありません。アーティストや美大生といった美術関係者、そして美術とは関係のない仕事をしている方もいます。幅広く「美術が好き」な方々が集まっていると思います。もちろん、美術には興味がなく、純粋にカフェとして利用される方もいますし、様々です。

 ただ、僕がいることが関係しているかはわかりませんが、「作品を購入してみたい」と思っている方が、来てくださることはあります。「『SUNDAY』に来て、初めて作品を買いたいと思ったのですが、どうしたら良いですか?」と、よく聞かれたりするんです。

——作品を購入することに興味はあっても、購入するまでのステップがわからず、なかなか踏み出せない方は多いのかもしれませんね。そういった質問があったときはどんなアドバイスをされるのですか?

 ギャラリーの方を紹介したり、時間があるときは、一緒にギャラリーに行くこともあります。ひとりでギャラリーに行って、いきなり「この作品をください」ということは、かなり勇気がいることですし、ギャラリーの方もびっくりしますよね(笑)。実際にそのとき展示されている作品でなくても、サイズや予算を伝えれば、ギャラリーの方は探してくれます。作品を購入したいと思っている方がギャラリーに直接相談できるようになる、その橋渡しができたら嬉しいです。

吉野が発行を手がける『GUIDE』。ギャラリーや美術館情報を紹介するフリーペーパーというかたちでも人と美術を繋げている

作品は生活をつくる

——吉野さんにとって作品を購入する魅力はなんでしょうか?

 美術は観賞することも楽しいですが、手に入れることでさらに楽しみが広がります。作品は生活必需品ではありませんし、なくてもいいものかもしれません。ただ、作品を購入したことがきっかけで、「どんな場所に飾ろう?」「この作品にはあのインテリアを合わせよう!」といった、作品に対する自分だけの楽しみ方が生まれます。単純に、自分の好きなものを選んで、自分の好きな空間をつくっていくということは楽しいですし、魅力的なことです。

——作品に対して「観る」だけではなく「所有する」という視点を持つことが、さらに美術と関わることを楽しくさせてくれるのですね。作品を生活の中で楽しむためには、どこから始めたらよいと思いますか?

 まずは自分がどんな場所に作品を飾りたいか、考えてみることから始めるのが良いと思います。自宅だったらリビングや寝室、玄関といった具体的な場所を思い浮かべてみます。そして、その場所に合わせて飾るならどんな作品がいいだろう、と想像してみるんです。作品を買うか買わないかは別として、そうやって想像しながら展覧会に行って、作品を観てみると面白いと思います。どんな作品を飾ろうか決めたら、その作品の下には何があったらいいかな、という風にさらに想像を広げていきます。お花を飾ってみたり、自分で撮った写真を飾ってみてもいいかもしれません。

——「作品を飾る」ということを軸に、自分の好きな空間をコーディネートしてみるのですね。

 はい。最初は想像だけでもいいですし、写真集の好きな写真を開いて置いてみたり、展覧会のDMを置いてみることから始めてもいいと思います。自分ができることからやってみるんです。そうやって少しずつ、作品を生活に取り入れていくことで、美術の楽しみ方がもっと広がると思います。外に出るときに、何を着ていこうかな、と考えるのと同じように、美術も自分が好きなように、生活の中で楽しめるといいのかな、と思います。​

「CAPSULE」で個展を行っていたアーティスト・山根一晃と一緒に。「吉野さんは正直、僕の作品は好みじゃないと思うけど(笑)」と冗談を交えて話す山根が印象的。アーティストと吉野のとてもフラットな関係性がうかがえる