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2019.4.15

トレンドから見える、現代美術。アートコレクター桶田俊二・聖子夫妻インタビュー

世界各地を訪れ、時代の流れとトレンドを意識しながら、独自のセンスでアートコレクション「桶田コレクション」を築き上げてきた桶田俊二・聖子夫妻。アートコレクターとしての来歴を含め、作品収集の魅力について聞いた。

撮影=菅野恒平

桶田夫妻
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「最初の1点は草間彌生」

──おふたりは、現代美術のコレクションを長年続けていらっしゃいます。コレクションを始められたきっかけを教えてください。

聖子 最初は現代美術ではなく、骨董美術がコレクションの始まりでした。

 私は幼い頃から美術が好きでしたし、夫婦でも美術館や民藝館などをよく訪れていましたが、本格的に美術コレクションを始めたいと思ったのは、約20年前。偶然骨董屋に足を運んだ際に、腕の良い職人の作品を見て、とても興味を持つようになったのがきっかけです。それから10年間ほど、李朝や中国、日本など、骨董品を幅広く収集してきました。

アートコレクションのスタートとなった骨董コレクションの一部

──骨董品の収集から始められたのですね。現代美術はいつからコレクションなさっているのですか?

俊二 2010年1月からです。最初の1点は、草間彌生さんの作品でした。マドリードのレイナ・ソフィア、ロンドンのテート・モダン、パリのポンピドゥー・センター、ニューヨークのホイットニー美術館と、4ヶ国を巡回する大規模な個展に向けて、当時の草間さんが猛烈に作品を描いている姿を収めたドキュメンタリー映画を見たことがきっかけ。ふたりとも、草間さんのバイタリティや力強さにとても感動し、実際の作品を見に行って、初めて現代美術を購入したんです。

 いまもその作品は、大切に倉庫に保管しています。

──制作過程から見える、草間さんの情熱に惹かれたことが購入のきっかけだったのですね。

俊二 そうですね。それ以降、他の現代作家の作品も徐々に購入し始めました。古い骨董と新しいコンテンポラリー作品は、一緒に展示してみるとすごくマッチするんです。骨董はそれまでにたくさん集めてきたので、ここ数年は圧倒的にコンテンポラリーの作品を買っていますね。

──コレクションのラインナップについても教えてください。

俊二 いまのところ現代美術は、約8割がペインティングで、最近は立体作品も積極的に購入しています。

聖子 作家は、日本では草間彌生さん、奈良美智さん、村上隆さん、五木田智央さん、名和晃平さん、加藤泉さんの作品が好きです。草間さんの作品が、コレクションの中では一番数が多いですね。あとはKAWS、ヘルナン・バス、ゲルハルト・リヒターなど、比較的海外のアーティストが多いでしょうか。新人作家さんの作品を買うこともたまにあります。

 主に国内外のギャラリーで購入し、プライマリーでは手に入らない作品は香港、ニューヨーク、ロンドンなどで開催されるオークションを利用します。

桶田夫妻の所有するビューイングルームの一角

「ほとんどは一目惚れで購入」

──作品を買われるときの決め手はありますか?

俊二 ほとんどは一目惚れで購入します。ふたりがパッと見て「良い」と思うものにはハズレがないんです。どちらも気に入った場合には悩むことなく買う。あまり意見が食い違うことはありませんが、意見が二手に分かれてしまうと、いつも考え直しますね。なのですごく悩んで買ったものは、あまり良い結果にはならないです。買うなら2、3秒で決まります。30分でも考えてしまったらダメですね。

──おふたりがそれぞれ、印象に残っている作品や忘れられない作品はありますか?

聖子 2014年、草間さんにコミッションワークで描いていただいた、白の《INFINITY-NETS》(2014)ですね。でき上がって、自宅に飾ったときはとても感激しました。いまもリビングに飾ってあるその作品は、誰が見ても、全員が良いと言ってくださる。

俊二 私は、2016年の香港アートバーゼルでたまたま目に飛び込んできたジョージ・コンドの《Untitled, 2016》(2016)。それまでは一度も作品を買ったことがなかったギャラリーから出品されていたのですが、色とかたちがとても良くて、即決で購入しました。

──作品の購入にあたっては、投資目的という方もいますが、おふたりには投資という考えは念頭にありますか?

俊二 それはありませんね。自分が気に入って買ったものの価値が上がれば気持ちが良いかもしれませんが、それは宝くじのようなものなので、将来的に作品価格が何倍にも高騰するのは本当に一握り。

 ただ、自分が良いと感じる作品を買うために、買え換えをするというケースはあると思いますよ。それは、投資とは異なる観点だと思います。

リビングルームに飾られた草間彌生の作品《INFINITY-NETS [SPQOC]》2014 キャンバスにアクリル絵具 181.1×227.3cm ©YAYOI KUSAMA All Rights Reserved.

「アートとファッションは密接な関係」

──おふたりは長年ファッションビジネスをされていたということですが、現在もファッションはお好きなのでしょうか?

聖子 買い物にはよく行きますね。アートとファッションは、密接に関係していると思っていて、どちらもトレンドを意識しながら買っています。とくにいまは、ルイ・ヴィトンのクリエイティブ・ディレクターに就任したヴァージル・アブローに注目しています。現代美術のアーティストとして制作した作品にもとても惹かれましたし、同じくヴァージルがディレクターを務めるストリートブランド、オフホワイトの洋服を好きでいまはよく着ていますね。

──ファッションとアートの共通項として、トレンドを意識されているところがあるんですね。

俊二 そうですね。トレンドに合わせたいという思いよりは、アートもファッションも、やはり流行の最先端をいくものには、とても新鮮さがあるので魅力を感じます。どちらも「鮮度」がひとつのキーワードかもしれません。

──現役時代に、おふたりでつねにトレンドをつくってきたとういうこともベースになっているのでしょうか。

俊二 そうかもしれません。いまはもうリタイアしましたが、ずっとふたりで活動してきましたので、お互いに意識せずとも、自然と趣味嗜好が一致しています。

 いまはふたりともアートが一番の趣味なので、アートフェアやオークション、ギャラリーのオープニングなどには、国内外問わずなるべく足を運ぶようにしています。健康なうちに、行けるところには行きたいと思っているので、体力勝負ですね(笑)。

桶田夫妻の所有するヴァージル・アブローの作品《“advertise here”》2018 キャンバスにアクリル絵具  143x320cm ©2018 Virgil Abloh

「若い人が、アートに興味を持ってほしい」

──4月17日より東京・青山のスパイラルガーデンにて、おふたりのコレクション展「OKETA COLLECTION : LOVE @ FIRST SIGHT」が行われます。コレクションを一般公開されるのは初めてということですが、展覧会へ込める思いをお聞かせいただけますか?

俊二 作品をたくさんの人にお見せしたいという思いが強いです。これまでプライベートで3回ほどコレクション展を開催したのですが、今回は初めて一般公開に踏み切りました。やはりアートは敷居が高いというイメージが強いかもしれませんが、こうして作品を公開することによって、とくに若い方が、アートに興味を持ってほしいと思っています。

聖子 私も同じ気持ちです。この展覧会をきっかけに、アートを身近に感じる人が増えたら、開催した意味があると感じますね。ぜひ大勢の方に足を運んでいただきたいです。

──展覧会のテーマやラインナップはどのように決めたのでしょうか?

俊二 ヴァージル・アブロー、五木田智央、KAWS、空山基など、トレンドを抑えつつ、見ていて楽しくなるような作品を自分たちでセレクトしました。キュレーターの児島やよいさんに参加してもらい、今回の展覧会のために特別なチームを組んでいます。ジョージ・コンドの《Untitled, 2016》(2016)も含め、普段は自宅やビューイングルームには飾れないような大型作品も展示する予定です。

「OKETA COLLECTION : LOVE @ FIRST SIGHT」展ビジュアル

──今回初めて一般公開に踏み切った理由としては、やはり長年コレクターを続けられているなかで、アートの面白さを多くの方に伝えたいという気持ちが大きくなったのでしょうか?

俊二 そうですね。とくに日本は、アメリカや中国に継ぐ経済大国なので、もっとアートをコレクションしてくださる人が増えれば嬉しいですね。

 私はアートコレクターになってから、生活がとても楽しくなりました。老若男女問わず、多くの人にどんどんアートを生活の中に取り入れてほしいです。アートをきっかけに、いろんな人との出会いや交流もたくさんあるので、見える世界がとても広がります。

聖子 私はオークションハウスから届く冊子や、展覧会のカタログを見ているだけでも楽しい。アートのある生活は、時間をすごく有意義に過ごすことができるので、もっと多くの方に知ってもらいたいです。

リビングルームの一角

──これからコレクションを始めるという方に向けて何かメッセージはありますか?

聖子 ギャラリーや美術館を訪れて、実際に作品をたくさん見ることが大切だと思います。多くの作品に触れることによって、自分にとって良い作品がわかってくる。アートのある生活は本当に楽しいですよ。

 自分の予算に合った作品から買うことをおすすめします。入り口は、同年代の作家の作品など、身近に感じられるものからでいいんです。アート作品には、買ってみないとわからない魅力がたくさんありますので、ぜひ自分の気に入った作品からコレクションを始めてみてください。

草間彌生の作品が飾られた自宅玄関の様子