芸術の日常性を再創造する
次世代を担う若手作家の輩出源
2018年3月、銀座線外苑前から徒歩5分、ワタリウム美術館からほど近くにEUKARYOTE(ユーカリオ)はオープンした。真核生物を意味するEUKARYOTEは、ラテン語では「本当の核を持つもの」を意味の意味も持つという。「内に核を感じさせる作家や作品を紹介していきたい気持ちから、そう名づけました」と、EUKARYOTEディレクターの鈴木亮、マネージャーの小島佳子は話す。両氏は2015~17年までセゾンアートギャラリーに在籍。同ギャラリーの閉廊をきっかけに、EUKARYOTEを設立した。
ギャラリー内装工事中の2018年1月には、建材などを移動・集積することで、時を刻んできた建物に「地霊」を呼び起こす作品を制作する秋山佑太と、アーティストコレクティブ「カタルシスの岸辺」の展示を開催。2月からはプレビュー展として、磯村暖、小川潤也、香月恵介、品川はるな、高山夏希、田中良佑、中 島晴矢、畑山太志、楊博ら20代を中心とした12名によるグループ展を行なった。「セゾンアートギャラリーでは若手作家を世に出すことを責務としていました。EUKARYOTEでも引き続き、普遍的な価値を持ちうる若手作家を紹介し、今後のアートシーンの展望を示していけたらと思っています」(鈴木)
より積極的にコレクションを選定
「“美術作品が身近にある暮らし”を根付かせることが大きな役割だと認識してギャラリーを運営しています。実際にギャラリーに設置された作品を見ながら購入を検討してほしい」と鈴木は話す。学生時代に鈴木は写真、小島は絵画を学び、作家活動を行う同年代の友人・知人も多い。そんななかで、日本で作家が作家として生きる大変さを実感してきたという。「作品が売れないと制作環境もままならないし、次の活動につながらない。そのことを知っているからこそ、ギャラリーで作家をサポートしていきたいと思いました」(鈴木)
今後は企業オフィスなどでの作品展示を積極的に仕掛け、これまでギャラリーに馴染みの薄い層を開拓することを通してコレクターを増やす、そして、作品購入後のアフターサービスもあわせて行うという。「前職ではお客様から、購 入 後の作品の設置や保管について相談を受けることがしばしばありました。現代 美術の保守について、現在国内ではあまり整備されていない印象があり、EUKARYOTEではアフターサービスを徹底するために体制の整備を進めています」(小島)
作家とコレクターが協働する場
今後のギャラリーの展開として、「積極的に海外のアートフェアに参加し、共にアートの舞台で生き抜く作家を幅広く支援していけたらと思います」と2人は話す。EUKARYOTEが見つめる市場は国内だけでなく、国外だ。
「作品を売ることはそこまで簡単ではないとわかっていますが、どこかに希望がないと、いまの若い作家がなぜ美術を志しているのかがわらなくなってしまう気がするんです。作家として生きていくことのできる道筋のひとつを、ギャラリーと作家とコレクターが相互に関わることで築いていけたら、と思っています」(鈴木)
もっと聞きたい!
Q.注目のアーティストは?
山口聡一さんです。幼少期の錯視の体験を原点に絵画制作を続ける山口さんは、これまで香港で主に作品を発表してきました。近年はレリーフ状の作品や立体作品も展開。EUKARYOTEで3月25日まで開催中の個展では、陶器を素材とした作品を初めて発表します(鈴木)
Q.思い出の一品は?
映画監督、河瀬直美さんのドキュメンタリー作品集です。写真評論家・西井一夫さんの最期の2ヶ月を記録した『追憶のダンス』で、真摯に対峙する両者の態度から作品制作に携わることの意義深さを学びました。心を動かされるとは何かと考えるとき、いつも思い出します(鈴木)
PROFILE
すずき・りょう
1987年群馬県生まれ。東京ビジュアルアーツ写真学科卒業後、イギリス留学を経て東京都内のアートギャラリー勤務。2015年からSEZON ART GALLERYの運営、展示企画に携わり18年EUKARYOTEを設立。
こじま・よしこ
神奈川県生まれ。東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業。大学在学中に東京都内のギャラリーでインターンを経験。2015年からSEZON ART GALLERYの運営、展示企画に携わり18年EUKARYOTE設立に参画。
(『美術手帖』2018年4・5月合併号「ART NAVI」より)