古武家賢太郎が語るイギリスの老舗色鉛筆「ダーウェント」の魅力

イギリスで1800年代から鉛筆を手がける老舗メーカー・ダーウェント。幅広いラインナップを誇るその色鉛筆の魅力を、同じくイギリスを拠点に、色鉛筆で色彩豊かな作品を制作する古武家賢太郎が語る。

文=杉原環樹

古武家賢太郎と《The guardian》(2017) 撮影=川瀬一絵

|色鉛筆の生み出す豊かなレイヤー

 これは怪しげな密談か、それとも些細な談笑か。モダニズム絵画を思わせる抽象的なパターンで描かれた人物たちによる、意味深な場面の数々。支持体の桜の木目が薄く透過した、色鉛筆の重なりが印象的なこの寓話的な絵画の作者は古武家賢太郎。32歳で渡英、その後ロンドンで修士課程修了。5月からの新作展では、故郷広島での滞在を通して制作した絵画や立体を発表している。

Omnipresence 2017 撮影=三嶋一路

 「現実に多層的な意味を与える寓話を題材とする僕にとって、色鉛筆の生み出す豊かなレイヤーはとても重要な要素です。油やアクリルは用意にも時間がかかりますが、色鉛筆ならアイデアをすぐ形にできる。そのダイレクトさも気に入っています」。

 今回は彼に、色鉛筆ブランド・ダーウェントの油性から水彩まで含む7シリーズを体験してもらった。特に気に入ったのは、軟性の油性色鉛筆「カラーソフト」。

 「筆圧が強いので、多くの色鉛筆では折れてしまう。これは柔らかく、かつ折れにくいので理想的です。また、色を重ねたときのかすみ具合も大事。レイヤーにならないことも多いが、線の周囲にできるグラデーションが綺麗です。配色もユニークですね」。

ダーウェントでもっとも柔らかい「カラーソフト」を使う古武家 撮影=川瀬一絵
「カラーソフト」24色セット

 複雑な色面による作品のいっぽう、封筒に単色で描く「レターズ」シリーズも手がける。そんな一色での表現や、画面内の微妙なタッチを作るのに適していると語るのが、同じく油性でより硬質な「スタジオ」だ。画面内の部分における硬軟の組み合わせ、あるいはその重ね方の上下を入れ替えることで得られる多彩な表情が、古武家の絵画を支えている。

|想像以上に幅広い表現ができる色鉛筆の世界 

 加えて、こんな描き手ならではの指摘も。

 「ダーウェントの色鉛筆は、柄の末端を包むカラーキャップの色と実際の色に差がないのもいいですね。これが違うことがよくあるんです。それと、力の強弱が自在で広い面を塗りやすい『カラーソフト』にはマットな良く手になじむ質感の丸い軸が、細かい作業に向いた『スタジオ』には六角形の軸が使われている。用途に合わせた設計がされていると感じます」。

《Omnipresence》の部分。「レイヤーが重要」だと語る通り、木目の上に様々な色が重なり、複雑な色彩が現れている 撮影=川瀬一絵

 ほかにも「金や銀はあるがグリーンなどは珍しい」と話す、驚くほどの光沢を持つ「メタリック」シリーズや、ダーウェントの一押しである「インクテンスペンシル」シリーズなど、偶然性の高い水彩の色鉛筆にも新鮮さを感じたという。

「インクテンスペンシル」72色セット
「ウォーターブラシ」などのアクセサリーも充実している

 「色鉛筆というと、いまだに塗り絵のイメージが強い」と古武家。しかし作品について、油絵具やアクリルを使っているのか、と聞かれることも多いのだと話す。

 「このことも示す通り、色鉛筆は重ね方や筆圧の強弱、支持体との組み合わせによって、想像以上に幅広い表現ができる便利な画材。今後は油性と水彩の混合、色鉛筆とそれ以外の画材の融合を積極的に試しながら、この色鉛筆の可能性を引き出していきたいです」。

古武家賢太郎 撮影=川瀬一絵
MAHO KUBOTA GALLERYの会場風景。左が《Omnipresence》 撮影=川瀬一絵

(『美術手帖』2017年7月号より)

編集部

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