2018.11.15

ヤマハ発動機×ヤマハ
モビリティと音楽の融合。“ヤマハらしさ”を体現するものづくりとは?

「感動創造企業」を標榜し、陸・海・空すべてのフィールドで活躍するモビリティを世界180ヶ国以上で展開するヤマハ発動機。近年は同一ブランドを共有する楽器のヤマハとの共同プロジェクトにも積極的に取り組み、ものづくりの新たな可能性に挑んでいる。そのなかから直近の活動を紹介しよう。

文=杉瀬由希

タイヤのトラックパターンを楽譜に見立ててデザインされた装飾が会場を縦横に走る

(「Yamaha Design Exhibition 2018“Tracks”」の会場風景より)
前へ
次へ

“2つのヤマハ”だからできること

デザイン本部の設立以来、「デザイン」「ブランド」「経営」が直結した製品開発で躍進を続けるヤマハ発動機。“RevsyourHeart”をスローガンにヤマハらしいものづくりを追求するなかで、近年注目されているのが楽器のヤマハとの協働だ。「モビリティと楽器は、分野は違っても親和性があるんですよ。どちらも気持ち良く乗れたり、演奏できたりする“感動”が大事。人とモノとの関係性を大切にするという開発思想は両社に共通のものです」(ヤマハ発動機デザイン本部)。「考え方が違う点も多く、だからこそ吸収することが沢山ある。音に対する意見やアイデアをいろいろ求められるので、普段以上に音について深く考えますし、こちらのアイデアを発展させてくれるところが面白い」(ヤマハデザイン研究所)

乗り物のパーツによって構成された演奏装置「&Y03 eMotion Tracks」 (「Yamaha Design Exhibition 2018“Tracks”」の会場風景より)

 1つのテーマで両社がコンセプトモデルのデザインをともに手がけるプロジェクト「&Y(アンディ)」もそのひとつ。これまでに音を奏でる電動アシスト車いす「&Y01」や乗り物を体感できる音響装置「&Y02」を制作し、展示発表会をはじめ国内外で発表してきた。

 3回目となる今年は、乗り物のパーツによって構成された演奏装置「&Y03eMotionTracks(以下、&Y03)」を制作。仲間とともに楽器や乗り物を操っているときの楽しい時間やシーンを想起させる、“2つのヤマハ”ならではのコンセプトモデルだ。10月に六本木ヒルズで開催された展示発表会「Yamaha Design Exhibition 2018 "Tracks"」では、自律走行するモーターサイクル「MOTOROiD」が「&Y03」およびピアノ、ドラムの自動演奏と共演するデモンストレーションも披露され、来場者の関心を集めた。

自立走行するモーターサイクル「MOTOROiD」のデモンストレーションの様子(「Yamaha Design Exhibition 2018“Tracks”」の会場風景より)

共同の「YCH」で真のデザイナーを育成

 デザイナーを目指す学生たちが1泊2日でものづくりにチャレンジする「ヤマハ・クリエイティブ・ハッカソン(以下、YCH)」も、5回目を迎えた今年は、初めて2社共同で開催。「緑の中で風と音を楽しむ『モビリティ』を創る」をテーマに、全国から集まった学生25人がチームに分かれ、プラスチック段ボールを用いて、実際に人が乗れて音が出るモビリティの制作に臨んだ。

 「音や感動というかたちのないものを、どうすれば人に伝わる形状にできるのか。それを考えられることがデザイナーのひとつの能力」(ヤマハ)。「楽器も乗り物も原寸でつくり、リアルな体感でとらえることが大切。描いて考えるだけでなく、実際に手でつくり試行錯誤して初めてわかることが沢山あるので、それを学生たちにも体験してほしい」(ヤマハ発動機)。

 現在デザイン本部には、かつて学生としてこのYCHに参加していた社員もおり、ヤマハのものづくりの精神を受け継いでいる。

「ヤマハ・クリエイティブ・ハッカソン」でのプレゼンテーションの様子

長屋明浩(ヤマハ発動機 デザイン本部長)

 2社に共通するキーワードは「クラフト」です。楽器の工場でも、乗り物の工場でも、1点1点職人が手がける感覚でものづくりが行われている。人が価値を見出すものは、結局は感動を追求したものであり、効率化とは無縁のものです。どんなに便利な世の中になっても、楽しくなければ人の心は動きません。ヤマハは、文化をつくる会社として、今後も強みである「感動」や「楽しさ」によりフォーカスしていきたいと考え ています。

川田学(ヤマハ デザイン研究所 所長)

 今年の「Yamaha Design Exhibition」のテーマ、Tracks(トラックス)は、乗り物が動いた跡である轍のことをトラックといい、音を記録したタイムラインのこともトラックというように、両社にとって示唆に富んだ言葉になりました。また、独立したトラック同士が響きあい、時間や空間、そして感情をシンクロさせ、増幅しあってより大きな感動を創るという両社に共通するイメージも、複数形のTracksという言葉にこめられています。