自らのなかの「何者か」を描き出す、 多層的な絵画表現 a.a.t.m.2017グランプリは泉桐子が受賞
力強さと繊細さを併せ持つ線は、「画面を掘ったかのよう」とも評された。人物や植物のイメージが幾重にも重なる、どこか幻想的な風景を描いた絵画作品は、作家自らの内面を表す「地図」のようなものだと言う。大学・大学院を卒業・修了したばかりの若手作家を対象とする「アートアワードトーキョー 丸の内」。11回目となる今年、グランプリに選出されたのは、武蔵野美術大学大学院を修了した泉桐子だ。
泉が表現するのは、一貫して「自分の頭の中に現れるもの」。完成図を思い描くことはせず、「複数の自分が『相談』しているような状態」など、自らの心の内を見つめ、それを投影するように描き進める。完成した作品を見て初めて表現したかったものがわかることもあると語り、作品を「手紙、物語、あるいは私の地図」と表現する。大学院では日本画を専攻したが、油絵具のように顔料を扱うなど試行錯誤を経て、領域にとらわれない表現方法に辿り着いた。
受賞作となった《とある蒐集家の話》は本展のために制作した新作。線を重ねるというストイックな作業を繰り返すことで、静謐な物語を感じさせる深い世界観を構成し、多層的な意味を持つ作品をつくり上げたと高く評価された。
学生時代は大画面に向き合い続けてきたと言う泉。大学院を修了し制作活動を続ける現在は「これまでと方向性を変え、小ぶりな作品で空間を構成することにも挑戦したい」と、新たな展開に意欲を見せた。
また、a.a.t.m.2017三菱地所賞は、名古屋芸術大学卒業の藤原葵が受賞。アニメの方法論を引用した大作の絵画作品を出品し、コンセプトを体現するのみにとどまらない、迫力ある表現に到達した点が評価された。現代的な主題を曼荼羅や山水画からの引用と組み合わせて描いた、多摩美術大学大学院修了の奥村彰一は、一般観覧者の投票で決まる丸の内賞(オーディエンス賞)、今村有策賞、フランス大使館賞を同時受賞。緻密につくり込まれた絵画作品が上位入賞を占める結果となった。
(『美術手帖』2017年11月号「INFORMATION」より)