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アレハンドロ・ホドロフスキー、最新作では青年期を自伝的に描く。映画『エンドレス・ポエトリー』

アレハンドロ・ホドロフスキー監督の3年ぶりとなる最新作。前作『リアリティのダンス』の続編として青年期を自伝的に描く作品『エンドレス・ポエトリー』が11月18日より公開される。

文=水沢なお(詩人)

映画『エンドレス・ポエトリー』より © 2016 SATORI FILMS, LESOLEIL FILMS Y LE PACTEPhoto by Pascale MontandonJodorowsky

幻想的な色彩が詩を紡ぐ、ホドロフスキー最新作

 炎のように赤い唇をした少年が言った。「詩が僕の行く道を照らしてくれる、燃えさかる蝶のように」。その瞳には、抑圧的な父親のことやあらゆる不安を書きつづった詩が炎となり、光となってちかちかと揺れている。

 そう語る少年は、監督であるアレハンドロ・ホドロフスキー自身だ。前作『リアリティのダンス』(2013年)では幼少期を描き、本作『エンドレス・ポエトリー』では青年期を自伝的に描いている。詩人を目指す若きアレハンドロは悩み葛藤するが、恋や友情、様々なアーティストとの出会いが、彼の世界を押し広げていく。

映画『エンドレス・ポエトリー』より © 2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE Photo by Pascale Montandon Jodorowsky

 鮮烈な色彩の中、炎や赤はとりわけ印象的に語られる。皮膚の裏側に似た色のジャケットを身にまとい、赤い髪の女性を愛す。白い手にナイフで自分の名を刻む。互いの色の濃い部分に触れ合い、切り落とされた赤い髪にマッチで火を灯す。さらには真っ赤な愛の風船が、幼い頃の記憶を飛ばしていく。赤は、象徴というより神聖なもの、そして真紅の炎やまばゆい光は、生そのものだった。

 しかし光が強くなればなるほど、陰も濃くなっていく。同じく詩人のエンリケ・リンに「詩は燃えるときに完成する」と説かれるも、アレハンドロは「芸術が燃えるなんて耐えられない」と告げる。そして赤い生と黒い死が激しく拮抗するパレードの最中、ついに存在する目的や生きる意味を見失い、絶叫する。それは若きアレハンドロの叫びではなく、この世界に生きる詩人としての叫びだった。

 この映画は一遍の詩だ。「詩とは行為である」と作中で語られるように、言葉を綴るばかりが詩ではない。自らが「燃えさかる蝶」となることで、アレハンドロは問いに答え、生きるということを強く肯定する。抱きしめ合う、許し合う、見つめ合う。あらゆる色が、あらゆる光が、あらゆる行為の節々が、自分自身と向き合う勇気をくれる、そしてむせび泣くほどの世界を生きる、私たちの背中を押す。

『美術手帖』2017年11月号「INFORMATION」より)

編集部

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