上海の摩天楼に登場した新スポットにて ジュリアン・オピーの中国初個展が開催
高層ビルが建ち並び、足を運ぶたびに景色が変わる、急成長中の上海。アートシーンもめまぐるしく変貌を続けるなか、2016年末、ギャラリー兼イベントスペースとしてフォースン財団がオープンした。デザインはフォスター・アンド・パートナーズ、設計はトーマス・ヘザーウィック。3階建てのビルは、まるで宮崎駿アニメに登場する動く城のよう。実際、パイプのような外壁の装飾が時刻に応じて動くというから驚きだ。
この新スポットで、ジュリアン・オピーの中国初個展が開催されている。西欧絵画の主要なモチーフを徹底的に簡略化する作風で知られ、日本の浮世絵やマンガにも影響を受けているというオピー。彼はこの建築と展示空間をどのようにとらえたのか。
「初めてこの建築を見たときは、あまりに奇怪で驚きました。奇抜な建築はアーティストが展示を行う場所としては難しいスペースであることが多いのですが、川岸を歩きながらビル群を眺めていたら、ほかと比べてこの建物はまったく飽きない、まるで音楽を奏でているような素晴らしいものだと気づきました」。特に2階と3階の展示空間の違いがとても魅力的だという。
「2階は天井が高く、大きな窓からは素晴らしいスカイラインが見わたせて開放的。対する3階は窓がなく、天井も低いため、親密で密度が高い空間になっています。今回は、鑑賞者が最初に訪れる2階にポートレイト作品を配置しました。歩く人、走る人……様々な表情のポートレイトで、用いた技法や素材もバラバラですが、外の景色とつながって、いまにも作品が飛び出していきそうな印象です。いっぽう、3階にはランドスケープ作品を配置しました。閉ざされた空間で鑑賞することで、作品1点1点の中へと入り込ませるような仕掛けです。エレベーターで3階へと上がる鑑賞者は『次のフロアもまたポートレイトかな』と想像すると思うのですが、それに対して一切ないという驚きを与える効果もあります」。
50点あまりの出品作は、ペインティング、壁画、彫刻、デジタル・アート、ファイバー・アートなど多種多様な技法と素材で仕上げられている。
「現代は『自分は画家だ』というように、決まったポーズをとる必要がない時代です。私は、色や主題を選ぶように、素材を選んでいると言ってもいいかもしれません。例えば空港には、スチールをカットしたサインもあれば、デジタル掲示板も、手書きの貼紙もある。世界中にあふれているこの状況と同じことをしているだけです。さらに言うとLEDと古代ローマのモザイク画は、ビットで構成しているという点で構造的にはほとんど同じです。このように時代を超えて、メディウムの可能性を広げていきたいと思っています」。
素材のセレクトから最終的な表現手法まで、彼独自の思想がうかがえる。新しい素材への探求を欠かさないオピーは、2015年に香川県高松港に恒久設置された野外彫刻《銀行家、看護師、探偵、弁護士》を、地元の石を使ったという点で、とても気に入っているという。
「高松のプロジェクトは、大理石や庵治石などを切るところから始めました。それらの石はとても魅力的な素材でした。日本では石は墓に用いられていますが、50年、100年前にいた人々が確かにそこにいる、秘められている。そんな静寂が墓石には含まれていると感じます。私はしばしば自分の作品を表現するときに『墓地』という言葉を使うのですが、このように静寂を湛えることができる作家でありたいと思っています」。
今後もテクノロジーの進化によって、オピーはさらに革新を続け、静寂という強い芯は、さらに太くなっていくだろう。
(『美術手帖』2017年6月号「INFORMATION」より)