深淵への飛翔
親しい友人たちを撮った写真を通じて人間愛を示した素晴らしい芸術家、任航(レン・ハン)が、2017年2月24日に29歳でこの世を去りました。
任航は、恋人、親友、家族に配慮的な愛を注ぎ、お互いにとって善いことを願い合う、たくさんの人々に愛された人物であり、私の最愛の友人でした。彼は常日頃、愛する人たちと過ごす親密な時間を壮大なパーティにしてしまい、その共有される経験を大切にしていました。
四季折々の花や自然、親しい友人やモデルの姿、形、色を美しくとらえたいくつもの瞬間のなかに、「私はここにいる」という意志を持った光として、その彼の生きた人生の片鱗を見出すことができます。
彼との出会いは、2015年2月22日。「あなたを日本で、世界で、展示を通じて紹介していきたい。東京で、あなたの日本初となる個展を開催したい」と、旧正月が過ぎた頃に送ったメールへの返信が、彼から届いたのです。短い1行に、喜びに満ちた気持ちが溢れていました。その後、東京在住の彼の親友フィッシュとユアンが私のギャラリーを訪れるという縁もあり、親しくなっていきました。
15年と16年の夏頃に個展を開催し、幾度となく東京へ訪れていた彼と過ごした2年間。凍てつくような真冬の深夜の公園、頭がくらくらする高層マンションの屋上、台風吹きすさぶ雑居ビルの屋上など、スリリングでちょっと危険な撮影にも同行しました。私一人が逃げ遅れ、マンションの管理人に捕まって謝罪をしたり、転んで骨折するなど痛い経験もありましたが、すべて思い出として、鮮明なまま脳裏に焼きついています。彼は、詩も綴っていました。そのなかの一節にこうあります。「私は毎日、暗闇に向かって石を投げている。いまだ返事は返ってきていない。もし、人生が底なしの深淵であるならば、そこに飛び込めば永遠の飛翔になる」。彼は何かに苦しんでいたようではありますが、それは彼にしかわからない秘密です。彼にとって、近い存在であり遠い存在である生の輝きを、殴り合うような内的な葛藤のエネルギーを、友人やカラフルな動植物や自然のなかに見出し、写真や詩として記憶していたのではないでしょうか。最後に、彼の家族、友人、関わってきてくださったすべての皆様へ、心からお悔やみを申し上げます。そして彼が、底なしに開けて光に満ちた向こう側で、永遠に自由に飛翔していけるように、彼を愛した多くの友人や家族の幸せを願って、これから毎日手を合わせて感謝と希望の祈りを捧げます。
(『美術手帖』2017年5月号「INFORMATION」より)