「没後200年 亜欧堂田善 江戸の洋風画家・創造の軌跡」(千葉市美術館、1月13日〜2月26日)
首都圏では17年ぶりとなる亜欧堂田善(あおうどうぜんでん、1748~1822)の回顧展が、千葉市美術館で開催される。田善は江戸時代後期に活躍した洋風画家。現在の福島県須賀川市に生まれ、47歳のときに白河藩主松平定信の命を受け、腐食銅版画技法を習得した画人だ。主君の庇護のもとで試行錯誤を重ねた田善は、当時最高峰の技術を身につけ、日本初の銅版画による解剖図『医範提鋼内象銅版図』や、幕府が初めて公刊した世界地図『新訂万国全図』など、大きな仕事を次々に手がけた。
田善は西洋版画の図様を両国の花火に取り入れた《二州橋夏夜図》や、深い静寂と抒情を湛える《品川月夜図》など、最先端の西洋画法と斬新な視点による江戸名所シリーズ『銅版画東都名所図』(重要文化財)や、《浅間山図屏風》(重要文化財)に代表される肉筆の油彩画にも意欲的に取り組み、洋風画史上に輝く傑作を多く世に送り出した。
本展では、現在知られる銅版画約140点を網羅的に紹介。また、谷文晁、司馬江漢、鍬形蕙斎といった同時代絵師の作品、田善の参照した西洋版画や弟子の作品まで、約250点を一堂に集め、謎に包まれたその画業を改めて検証する。
インド独立75周年・日印国交樹立70周年「インド近代絵画の精華―ナンダラル・ボースとウペンドラ・マハラティ」(神戸市立博物館、1月14日~3月21日)
日本とインドの国交樹立から70年の節目を記念して、ニューデリー国立近代美術館のコレクションによる、インド近代絵画の展覧会。インドの近代美術を代表する画家、ナンダラル・ボース(1882〜1966)とウペンドラ・マハラティ(1908〜1981)の作品が展示される。
ボースは、アバニンドラナート・タゴール(1871〜1951)をはじめとするベンガル派の画家たちから大きな影響を受けたことで知られている。ベンガル派は、20世紀初頭、岡倉天心(1862〜1913)や横山大観(1868〜1958)、菱田春草(1874〜1911)といった日本近代美術の重要人物たちとも交流し、急激な西洋化の波の中で、自国の美術が失われるかもしれないという危機的な状況を共有しながら、西洋画ではなく伝統的な絵画技法を重要視した。
いっぽうのマハラティは、ボースの次世代として登場し、インド近代絵画を牽引した重要な画家のひとり。1950年代に2年間日本に滞在しており、留学を契機として仏教的な主題を多く手掛けるようになった。本展では、ふたりの画業の一端をニューデリー国立近代美術館とパトナー美術館の所蔵作品25点から紹介。日本画壇の作家たちとの運命的な出会いから生まれたインド近代絵画の精華を見られる貴重な機会となる。
「Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎」(東京オペラシティ アートギャラリー、1月18日〜3月26日)
泉太郎の東京の美術館における初個展が「Sit, Down. Sit Down Please, Sphinx.:泉太郎」だ。泉太郎は1976年奈良生まれ。映像、パフォーマンス、ドローイング、絵画、彫刻といったあらゆるメディアを交錯させたインスタレーションを表現手法し、これまでにパリのパレ・ド・トーキョー(2017年)、バーゼルのティンゲリー美術館(2020年)で大規模な個展を開催するなど、国内外で精力的に作品を発表してきた。
本展では、古墳や陵墓、ストライキ、再野生化、仮病、鷹狩におけるマニング(懐かせる)やフーディング(目隠し)など、数々のキーワードが絡みあう思考のプロセスと、コスプレ、キャンプ、被葬といった体験を織り交ぜることで、不可知に向きあい続けるための永久機関を立ち上げるという。
「開館1周年記念特別展 大阪の日本画」(大阪中之島美術館、1月21日〜4月2日)
2021年2月にオープンした大阪中之島美術館は、開館1周年に合わせて開館以来初の日本画展を開催する。会場では、明治から昭和に至る近代大阪の日本画に光をあて、人物画の北野恒富(きたの・つねとみ)、女性画家活躍の道を拓いた島成園(しま・せいえん)、大阪の文化をユーモラスに描いた菅楯彦(すが・たてひこ)、新しい南画を主導した矢野橋村(やの・きょうそん)ら、自由闊達な個性をもつ作家50名以上の作品が退場を彩る。
近代大阪の日本画約150点が勢ぞろいする、史上初の展覧会となる本展。作品が生まれた背景にも目を向けると、作品を支えた画壇のあり方、今につながる大阪の街の文化を感じられることだろう。大阪中之島美術館1周年のお祝いも兼ねて、本展を訪れてみてはいかがだろうか。
「佐伯祐三 自画像としての風景」(東京ステーションギャラリー、1月21日〜4月2日)
躍動的な独自の線描の風景画などで知られる夭折の画家、佐伯祐三(1898~1928)。その回顧展は、活動拠点になった大阪、東京、パリの3つの都市にちなんで、プロローグ「自画像」、第1章「大阪、東京」、第2章「パリ」、第3章「ヴィリエ=シュル=モラン」、エピローグで構成される。
なかでも見どころが多いのは、「壁のパリ」と「文字と線のパリ」のふたつのテーマで展示を行う第2章だろう。「壁のパリ」では、《壁》や《コルドヌリ(靴屋)》といった代表作など1925年に佐伯が到達した石壁の質感を厚塗りで表現する作風の作品群、「壁のパリ」では画面を埋め尽くすポスターの文字や、線で表現されたパリの街角の作品を通して、その芸術の真髄ともいえ広告の文字と線描という代表的な様式の表現を鑑賞することができる。
プロローグで顔が削り取られた《立てる自画像》などを紹介し、エピローグの画家の最期の自画像とも言える作品で展示を締めくくる巧みな展示構成にも注目。なお本展は、展示作品の多くを収蔵する大阪中之島美術館に巡回する(会期:4月15日〜6月25日)。