筆者はこの記事を書いているあいだ、賑わう「フリーズ・ロンドン」に来ていた。29歳のジャデ・ファドジュティミによる混沌としながらも奔放な色や筆遣いによる絵画が高値で完売。そんなアートフェアの速報をする美術専門メディアの紙面に、独裁者の肖像画の側で「遺産の修復を!」と謳う、9月末のイタリア総選挙で勝利したジョルジャ・メローニの風刺画が掲載されている。
イタリア系の画廊を通るとき、その営業に水をささない程度に、今回の選挙結果が同国の芸術文化にどのような変化を及ぼすと思うか尋ねてみた。新しい右派連合は、文化関連品の付加価値税を4パーセントに引き下げ、文化セクターでの新技術導入の遅れを取り戻すための資金援助、現在閉鎖されている建造物や美術館を開放するための民間と公の協力関係を緊密にすることを構想しているという。どこかですでに聞いたことのある政策であり、世界と直接つながる自由市場にすぐに影響が及ぶことはないと、某ギャラリーディレクターは言う。いっぽう、彼らの顔が曇るのは社会体制の硬直化への懸念からだという。
本人は保守派を自称するが、筆者が読む英・仏語の複数メディアから極右と呼ばれ警戒されてきたメローニ。20世紀初頭のファシズム期においてさえ「未来派宣言」などの前衛芸術を生んだイタリアを心配する必要はないかもしれないが、極右・右派ポピュリストや排外主義の台頭が続く現実に対して、文化人が警鐘を鳴らしているという事実に注意しておきたい。