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美術館はデジタルで「稼げる」か? 森美術館「MAMデジタル・プレミアム」の事例から探る

森美術館が新型コロナウイルスによる臨時休館中の昨年5月に開設したオンライン・プログラム「MAMデジタル」。その新たな取組としてスタートさせた「MAMデジタル・プレミアム」は、日本における美術館では稀有なデジタル有料プログラムだ。このプログラムをスタートさせた背景に迫るとともに、「デジタルで稼ぐこと」の可能性を考える。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

「MAMデジタル・プレミアム」より

 新型コロナウイルスの感染拡大により、昨年春には多くの美術館が長い臨時休館を余儀なくされた。再開後もコロナ以前のように制限なく入館者を受け入れられる状態には戻らず、とくに大規模展覧会では事前予約制を導入するなど、展覧会の構造が大きく変化している。

 事前予約制では入館者の上限(つまり入館料収入の上限)が自ずと決まり、これまで通りの収益が上げられるというわけにはいかない。入館料だけに依存しない収益構造の多角化は、いまや美術館にとって大きな課題のひとつだ。

 そんななか、ひとつのベンチマークとなるのかもしれないのが、森美術館がスタートさせた「MAMデジタル・プレミアム」だ。森美術館は、新型コロナによる臨時休館中だった昨年5月にオンライン・プログラム「MAMデジタル」を開設。その後、新たな取組として10月に日本における美術館では稀有なデジタル有料プログラム「MAMデジタル・プレミアム」をスタートさせた。

「MAMデジタル・プレミアム」より

 「MAMデジタル・プレミアム」では現在、「STARS展」(2020)出展作家の奈良美智、李禹煥、宮島達男、杉本博司らのアーティストトークが各500円(72時間レンタル)で配信されている。森美術館はデジタルプログラムを今後も拡充していくという方向性を示すが、プログラムの運営やコンテンツ制作には相応のコストがかかるため、マネタイズは必然的に課題となる。そのひとつのソリューションが、「MAMデジタル・プレミアム」のようなコンテンツの有料化だった。

 入場料収入に代わる収益の多角化を模索するなかでの、「新たなビジネスモデル」となることが期待される「MAMデジタル・プレミアム」。同館広報によると、リリース後は「ユーザーからの評価には手応えを感じている」という。「MAMデジタル・プレミアム」の利用者は無料コンテンツと比較しても滞在時間が圧倒的に長く、平均視聴時間は約50分。「無料では平均視聴が2〜3分」という数字と比較すると、「ユーザーが腰を据えて視聴していることが明白」だと分析している。

 「有料コンテンツが長尺(例えば今回の奈良さんのアーティストトークは2時間弱)だということだけでなく、ユーザー側の受け入れ姿勢も有料/無料で自ずと異なってくるのだろう」というのが同館の見解だ。

「MAMデジタル・プレミアム」より

 「当館がこれまで提供してきた映像コンテンツの多くはラーニングのイベント記録としてYoutubeで無料公開してきたもの。しかし、有料化に際してはたんなる記録映像ではなく、視聴コンテンツとして楽しめるクオリティの映像を美術館がいちからつくり上げていく、というアプローチが無料との差別化を図るためにも必要になる」。

 そのいっぽうで、「映像コンテンツとしてのクオリティの高さ──今回のアーティストトークのように、撮りおろしのインタビューや資料画像や映像のインサート、4K対応の画質、映像の専門家によるディレクションなど、高い付加価値を備えたもの──は、美術館活動のアーカイブとしての資料的価値も高いものになる」という考えも示す。

 コロナ禍においては、リアルな展覧会の補完的な役割としてVRでの展示公開など様々なコンテンツが生み出されている。しかしながらデジタルプログラムはそうした補完的な役割だけでなく、コロナ収束後も美術館のリアルな空間と連動・併走するものとして「新しい方向を示せるのではないか」と同館は期待を寄せる。

 収益の多角化を図るとともに、よりオリジナリティあるコンテンツを発信・アーカイブできる可能性を持つ有料のデジタルプログラム。これは美術館の新常識となるだろうか。

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