エアロゾルの意味論 ポストパンデミックの思想と芸術 粉川哲夫との対話
コロナ禍で日常の様態が一変したとき、美術家と哲学者は何を考えていたか。今年春から初夏にかけて、大山エンリコイサムと粉川哲夫のあいだで交わされたソーシャルディスタンス時代の往復書簡集。新型コロナウイルス感染のメカニズムであり大山の制作に密接な関係を持つ鍵概念「エアロゾル」を契機に闊達な連想を繰り広げるほか、リモートであることと軍事技術の関連性、BLM運動の今日的な意味、ポストヒューマン思想にも連なるような「主体」概念のとらえ直しなどが2人の対話のなかで深められていく。 (中島)
大山エンリコイサム=著
青土社|2000円+税
TOPICA PICTUS とぴか ぴくたす
造形作家・岡﨑乾二郎の近作集。「場所の/空間の絵」とでも訳しうる画集に掲載された作品は0号程度のものがほとんどで、物理的な広がりはきわめて小さい。だが、作品1枚1枚からは、広大な空間のイメージが浮かぶ。幾層もの重なり合った絵具、交差する筆致、作品を支えるフレームなどの各要素が特別な体験を可能にしている。本書は「絵を描いていても、それがいつも『絵になる』とは限らない」という岡﨑の記述で始まる。ここでいう「絵になる」とは、絵画の背後にある、この広大な空間を意識させる能力を指しているのではないか。(岡)
岡﨑乾二郎=著
ナナロク社|4000円+税
この星の絵の具 [中]ダーフハース通り52
画家の小林正人がこれまでの半生を振り返った自伝小説。上巻では初めて絵を描くようになった高校時代、ミューズ的存在となる「せんせい」との出会い、佐谷画廊でのデビューなど画家人生の初期に起こった出来事が明らかにされたが、本書はヤン・フートに招かれて赴いたゲントをはじめ、海外での活動が主に語られる。これまでにない制作環境、個性豊かな人々との出会いを経て、小林作品は新たなステージに突入する。画家の息遣いがそのまま宿ったような口語体が、燃えたぎる情熱を赤裸々に伝える。(中島)
小林正人=著
ART DIVER|1800円+税
(『美術手帖』2020年12月号「BOOK」より)