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岡田利規の「能」から注目のキャラクター論まで、『美術手帖』10月号新着ブックリスト(2)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。チェルフィッチュを率いる岡田利規による「コンテンポラリー能楽集」や、フィクションとリアルの往還から「キャラクター」をとらえ直す1冊など、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

新訳版 芸術経済論 与えられる歓びと、その市場価値

 イギリス近代を代表する社会思想家、ジョン・ラスキンが1857年に発表した古典的著作の新訳。優れた美術評論や建築評論を世に送り出したことでも知られるラスキンだが、本書は経済活動と関連付けて芸術・創作活動が持つ固有の価値をとらえ直した点に画期性がある。天分のある生産者をいかに擁し、その仕事の成果を蓄積・分配するにはどうすればいいのか。開かれた社会のために必要な本当の富とは何か。経済的思考を正しく芸術に適用するための手掛かりが本書から見出せるはずだ。(中島)

『新訳版 芸術経済論 与えられる歓びと、その市場価値』
ジョン・ラスキン=著
宇井丑之助、宇井邦夫、仙道弘生=訳
水曜社|2500円+税
 

未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀

 演劇はわざとらしい。役者は舞台の上で役柄になりきろうとするが、そこにはどうしても不一致が生じる。しかし、「役になる」のではなく「役を呼び寄せる」能であれば、内容と形式は融合するのではないか。近年「能」に強い関心を抱いている岡田利規が、実在しない存在=幽霊を演劇の場に召喚させる「コンテンポラリー能楽集」を上梓。資本主義の歪みが死者の声となって東京中に響き渡る『NŌ THEATER』、建築家ザハ・ハディドと高速増殖炉もんじゅの鎮魂歌とも言うべき『未練の幽霊と怪物』の脚本を収録。(中島)

『未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀』
岡田利規=著
白水社|2400円+税
 

キャラがリアルになるとき 2次元、2.5次元、そのさきのキャラクター論

マンガ、アニメ、ゲームなどのコンテンツを享受するとき、私たちの愛着や解釈は必ずしも「作品」という単位だけに向かうのではない。コマを飛び越えて躍動するマンガの登場人物から「2.5次元」と呼ばれる舞台作品の演者まで、メディアを横断する「キャラ」こそが受容者の物語体験を豊かにするのだ。作中世界と現実の距離を再考させるグルメマンガ、演者の成長が原作を賦活したミュージカル『テニスの王子様』などを論じ、フィクションとリアルの往還から「キャラ」をとらえ直す融通無碍のキャラクター論。(中島)

『キャラがリアルになるとき 2次元、2.5次元、そのさきのキャラクター論』
岩下朋世=著
青土社|2000円+税

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