9月7日発売の 『美術手帖』2020年10月号は、「ポスト資本主義とアート」を特集する。
新型コロナウイルスは世界を大混乱に陥れた。グローバル経済に伴う人の移動がウイルスを拡散させる新たなリスクになり、加速し続ける資本主義というシステムを再考させる契機にもなっている。現在私たちが社会の前提としている、商品や労働の概念は、資本主義が生み出したものであり、作品が「商品」として市場で売買され、作家の創作活動が「労働」ともされるアートの「生産関係」もまた同様である。本特集では、それらをとらえ直し再構築するために、資本主義社会への問いを投げかけるアーティストやアートプロジェクトを取り上げる。われわれはその経済システムとの関係をどうつくり変えることができるか? 資本主義社会の新しいかたちとその可能性を、アートを切り口に探る。
PART1の「資本主義社会とアートの関係学」では、コロナ禍のドイツ・ボンにて、世界的に注目を集める若き哲学者のマルクス・ガブリエルへの緊急インタビューを敢行。資本主義社会とアートの本来あるべき姿や理念について、俯瞰的な視点で語ってもらった。また、カール・マルクスの『資本論』を足がかりに、アートと資本主義社会の関係や、作品の価値発生のシステムや現在の資本主義とアートの閉塞状況を分析する記事や、「贈与」をキーワードに美術と社会の制度を問う対談も掲載。
PART2では国内外の「資本主義をとらえ直すアーティストの実践」を紹介。旧植民地の経済システムに介入し、格差を是正する活動を展開する、オランダ人アーティストのレンゾ・マルテンス。価値の体系から社会のシステムを考える丹羽良徳。私的空間から、資本主義と言語の関係を問うアマリア・ウルマンなどへのインタビューを掲載。また社会主義制度のベトナムの芸術センターで芸術監督を務める遠藤水城と、アーティストとしてシステムに包摂されずにメッセージを発信し続けてきたChim↑Pomの卯城竜太との対談も収録。それぞれの立場での資本主義との付き合い方を聞いた。
PART3では、コロナ禍で問われる、社会のなかでの新しい「労働」の在り方を、アーティストの活動を通して探る。作品をつくるだけではなく、自ら販売する回路を設定するなどの経済活動を制作に取り入れるアーティストの活動や、社会学者の毛利嘉孝、アーティストの田中功起、文化理論家の清水知子による、ポスト資本主義社会における芸術の「生産関係」を考える座談会、新進気鋭の研究者河南瑠莉による、東南アジアや旧共産圏のキュレーター集団の活動をめぐる論考などから、来るべき「連帯」と「労働」について考える。
PART4では、「資本主義との交点から見る、美術と社会の制度」をテーマに、アーティストのアイザック・ジュリアンへのインタビュー記事や、アート界の様々な論者による論考など、アートと資本、遊牧民文化、私的空間、ミュージアムや文化理論などを切り口に、両分野の交点となるような議論を取り上げる。
アート界のみならず、資本主義社会の新しいかたちやその経済システムと個人の関係を考えるためのヒントが多く詰まっている、大ボリュームの特集となっている。