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2020.6.12

人類にとって芸術とは何かを読み解くアンソロジーから原爆の図丸木美術館の学芸員日誌まで。『美術手帖』6月号新着ブックリスト(2)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。多摩美術大学芸術人類学研究所での研究成果をもとに、人類にとって芸術とは何かを問う入門的アンソロジー『芸術人類学講義』や、原爆の図丸木美術館のたったひとりの学芸員・岡村幸宣の作業日誌『未来へ 原爆の図丸木美術館学芸員日誌 2011-2016』など、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+ 岡俊一郎(美術史研究)

芸術人類学講義

多摩美術大学芸術人類学研究所での研究成果をもとにした入門的アンソロジー。題名に冠されている「芸術人類学」とは、芸術に対する人類学的手法ではなく、人類を芸術制作を行う種として、つまり「芸術人類」として扱う手法だという。本書に収録されている各講義はジャンル、地域、時代も異なる対象を扱っているが、人類にとって芸術とは何かという根源的な問いに貫かれている。講義の名にふさわしく、語り口は易しいが、広い視野から芸術と人類の関係を見つめ直すきっかけに最適の1冊。(岡)

『芸術人類学講義』
鶴岡真弓=編
筑摩書房|860円+税

アートがひらく地域のこれから クリエイティビティを生かす社会へ

「アートと地域の結び付き」といえば、地域芸術祭による観光の促進などの、地域振興を図る試みが想起されやすい。本書はこうしたアートの道具的な利用を念頭に置きながら、そうではないアートのあり方をこれまでの実践から見出そうと試みる。理論編にはアートなどの創造的な営みが地域振興といったほかの目的と結び付いていく時代状況を分析する論文が、事例編には各地域における実践を複数の立場から分析・記述した論文が収録されており、アートと地域の多様で複雑なあり方を伝えている。(岡)

『アートがひらく地域のこれから クリエイティビティを生かす社会へ』
野田邦弘、小泉元宏、竹内潔、家中茂=編著
ミネルヴァ書房|3200円+税

未来へ 原爆の図丸木美術館学芸員日誌 2011-2016

原爆の図丸木美術館のたったひとりの学芸員として日々の業務をこなしてきた岡村幸宣による、「3.11」以降の作業日誌。展覧会の準備はもちろんのこと、作家との交流、ワークショップの企画、他館レセプションへの出席、海外の美術展への作品貸付や帯同など、その業務はじつに多岐に渡る。多忙な日々のなかで《原爆の図》を後世に継承する使命に向き合い、政治に関わる芸術表現を検証しようとする姿勢からは、学芸員だけでなく美術に携わる様々な立場の人にとって学ぶところが多いはずだ。(中島)

『未来へ 芸術人類学講義 原爆の図丸木美術館学芸員日誌 2011-2016』
岡村幸宣=著
新宿書房|2400円+税

(『美術手帖』2020年6月号「BOOK」より)