『ユーラシアを探して ヨーゼフ・ボイスとナムジュン·パイク』
ボイスとパイクが協働して行った《ユーラシア》と題されたプロジェクトを分析した重厚な研究書。本書には、ヨーロッパとアジアを接続しようとする2人の試みの分析を通して、近代的な国家という枠組みに基づく思想を超克しようとする意図も込められている。作品の分析には、個別の作品が想起させるものをまた別のあるものへとつなげていく連想的な手法がとられている。それは、あたかも、2人の作品を通して、私たちの想像力の原形を見つけ出そうとする試みである。作品の分析にとどまらず、2人の作品をより深く理解するための史実も子細に描かれている。(岡)
『ユーラシアを探して ヨーゼフ・ボイスとナムジュン·パイク』
渡辺真也=著
三元社|5200円+税
『風景の哲学 芸術・環境・共同体』
古くから風景は美学、美術史などの分野で語り尽くされてきたジャンルだ。とりわけ絵画論との関係は深く、風景画の歴史が現実の認知にもたらした影響を無視することはできない。しかし元来、風景はそれ自体で美的経験を生み出すものである。本書はイタリアの美学者による風景論。風景が重要な役割を果たす地理映画、ランド・アートやアースワークにおける自然体験、環境美学的な視点からの検証、風景保護法の歴史などを経由し、芸術論の範疇にとどまらない広い視野から風景を考察する。(中島)
『風景の哲学 芸術・環境・共同体』
パオロ・ダンジェロ=著 鯖江秀樹=訳
水声社|3000円+税
『新写真論 スマホと顔』
手軽に撮影や画像のシェアができるスマートフォンの登場により、現代人にとっての写真の意義は大きく変容した。スマホの自動補正機能はインスタ映えする「いい感じ」のイメージを即座に生成し、カメラと撮影者のどちらが主導権を握っているのかもあやふやな状況をつくり出している。これまで工場や団地を取材してきた写真家の著者が、「見ること」を問う際に避けられないテーマである「顔写真」の問題を中心に、撮る側/撮られる側の対立を無効化した自撮り写真、家族写真文化の変遷などを分析する。(中島)
『新写真論 スマホと顔』
大山顕=著
genron|2400円+税
(『美術手帖』2020年6月号「BOOK」より)