『セザンヌの地質学 サント・ヴィクトワール山への道』
セザンヌに関する著作は数多くあれど、その風景画に地質学的観点からアプローチした作品論は本書が本邦初。サント・ヴィクトワール山やレスタックの岩場などセザンヌが繰り返し描いた山々に注目し、地形と画家の視点の関係、プッサンを介して明らかになる自然観などを検証する。サント・ヴィクトワール山を「中に火を秘めている」と形容したセザンヌがいったい何を見ていたのか、世界の起源と終わりを含み込む壮大なヴィジョンに肉薄。(中島)
『セザンヌの地質学 サント・ヴィクトワール山への道』
持田季未子=著
青土社|1900円+税
『仙人と呼ばれた男 ─画家・熊谷守一の生涯』
老年期はほとんど家から出ず仙人のような生活を送っていた熊谷守一。達観した人生観の背後には、極度の貧困や相次ぐ子供の死といった紆余曲折があった。画家の生前に聞き書きを行ったことのある元新聞記者の著者が、改めて資料にあたって熊谷の生涯を編み直した評伝。東京美術学校の仲間との関係性、1年にも及んだ音の振動数の研究、晩年に始めた書の話など、逸話の数々から熊谷の自然体の思いがけぬ多面性が見えてくる。(中島)
『仙人と呼ばれた男 ─画家・熊谷守一の生涯』
田村祥蔵=著
中央公論新社|1600円+税
『イマージュの肉 ─絵画と映画のあいだのメルロ=ポンティ』
フランスで教鞭を執るイタリア人哲学者による視覚文化論。メルロ=ポンティが晩年取り組んだ「肉」=〈可視性〉を主題に、哲学・絵画・映画を横断しながら画像の現在地について思索する。私たちの存在を、世界(客体)と向き合う「主体」ではなく、世界と出会う「共鳴器」(能動性と受動性が不可分な「くぼみ」)として考えることで、理念や価値が「生成」されるプロセスを解き明かし、その先の「無――哲学」へと向かう存在論。(近藤)
『イマージュの肉 ─絵画と映画のあいだのメルロ=ポンティ』
マウロ・カルボーネ=著
水声社|3000円+税
『日本国際美術展と戦後美術史 その変遷と「美術」制度を読み解く』
1952年から90年にかけて東京都美術館ほかで開催された「日本国際美術展」。通称「東京ビエンナーレ」として知られるそれは、戦後日本の美術界の「志向性」を検証するための重要な手掛かりとなる。「現代日本美術展」や「読売アンデパンダン展」など同時代の美術展と比較しながら、また90年代以降の国際芸術祭も視野に入れつつ、「日本国際美術展」の総体的な分析を通じて、戦後美術史をとらえ直す。巻末には各種年表など、多数の資料を収録。(近藤)
『日本国際美術展と戦後美術史 その変遷と「美術」制度を読み解く』
山下晃平=著
創元社|6000円+税
(『美術手帖』2018年3月号「BOOK」より)