富山県立近代美術館は開館以来、企画展のポスターをグラフィックデザイナー・永井一正がすべて手がけ、「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」を開催するなど、独自の方向性を持つ美術館として、北陸の地で活動を続けてきた。
そんな同館は2013年に「新富山県立近代美術館(仮称)基本計画」を策定、3年の年月を経て、16年に正式名称を「富山県美術館」に決定した。では、新しく生まれ変わる美術館はどのようなものだろうか?
美術館は巨大な船?
まずは美術館のデザインから見ていこう。設計を担当したのは、安曇野ちひろ美術館や茨城県天心五浦美術館などを手がけてきた内藤廣。富岩運河環水公園という運河の記憶を残す公園の一角に、美術館はまるで巨大な船のようなかたちで出現する。東向きの一面はすべてガラスで覆われ、立山連峰に開かれた空間が開放感を演出している。
美術館は地上3階建てで敷地面積1万2548平米、延床面積1万4990平米。1階には、アトリエでの創作体験の作品など、県民の発表・展示に活用される「TADギャラリー」や、県野菜を使った料理を楽しめるカフェ「Swallow Cafe」、ミュージアムショップがある。
2階に上がると、そこはいよいよ展示室だ。1から4までの展示室は、1と2がコレクション展、3と4が企画展示用になっており、最大で1800平米の空間を展示スペースとして活用することができる。展示室の間にある中央廊下には床から天井まで、富山県産の杉がふんだんに使われ、木の香りとぬくもりを感じられるのが嬉しい。
3階の展示室5では、富山県美術館が誇る名作椅子コレクションや、1万3000点のポスターコレクションのうち3000点を80インチの大型タッチパネルサイネージ5台でデジタル展示する。なお、このデジタルディスプレイはチームラボが手がけており、前を通過する来館者にインタラクティブに反応するという。
展示室6には、富山出身の美術評論家・瀧口修造と、富山を愛し晩年を立山山麓で過ごした音楽家のシモン・ゴールドベルクのコレクションが並ぶ。このほか3階には、小さな子どもから大人までが参加型のワークショップを体験できるアトリエや、キッズルーム、ホール、「日本橋たいめいけん 富山店」などがあり、様々な人が行き交うフロアとなる。
富山県美術館の大きな特徴となるのがオノマトペ(擬音語・擬態語)から考えられた遊具で遊べる「オノマトペの屋上」だ。屋上の芝生広場は、グラフィック・デザイナーの佐藤卓がデザインしたその名の通り「ふわふわ」「ぐるぐる」「つるつる」など知覚を刺激するような遊具が数多く設置されるという。
ロゴ&ユニフォームにも注目
富山県美術館では、そのロゴマークとユニフォームにも注目だ。美術館のシンボルでもあるロゴマークを手がけたのは、同館開館以来、企画展のポスターをデザインし続けてきたグラフィックデザイナー・永井一正。2色のブルーで「T」の字がかたどられており、明るいブルーは立山連峰の稜線が映える青空、深いブルーは富山湾を表している。また、ロゴのなかには、今回のリニューアル開館で富山県美術館が目指すアートの「A」とデザインの「D」が組み込まれており、ひとつのシンボルに館の名前と富山の自然が詰め込まれた。
また、来館者が必ず目にする美術館スタッフのユニフォームは、普段あまり気に留めることはないかもしれないが、富山では注目のポイントだ。ユニフォームデザインは「ISSEY MIYAKE」などを手がける世界的なデザイナー・三宅一生が担当、富山の自然や文化を改めて勉強し、その爽やかな風と光を取り込みたいという意図がそこにはあるという。
気になる開館記念展は?
さて、では気になる開館記念展はどのようなものになるだろう? 8月26日から始まる「生命と美の物語 LIFE-楽園をもとめて」では、美術の根源的なテーマである「生命」を核に、「INNOCENT(無垢、子ども、愛情)」「LOVE(愛、エロス、友情)」など8章で構成。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《葵服を着た若い女》(1876年)をはじめ、岡本太郎《傷ましき腕》(1936、1949再制作)、グスタフ・クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》(1903)、など約150点を紹介する。
富山のアートスポット
富山県美術館が位置する富山市内には、このほかにもアートスポットが点在している。富山県美術館がある環水公園のほど近くには、四季の移ろいが感じられる庭園とともに、日本の匠の技から現代作家の表現までを和の空間で楽しめる樂翠亭美術館が位置する。また、神通川を渡った五福には水墨画・日本画に特化した県立の富山県水墨美術館も。富山城近くには、16年8月に現代グラスアートを中心とした富山市ガラス美術館が開館。こちらは建築家・隈研吾が設計デザインを手がけたことでも知られている。富山県美術館とともに、これら富山のアートスポットを巡ってみてはいかがだろうか。