EXHIBITIONS

京都市京セラ美術館開館1周年記念展

森村泰昌:ワタシの迷宮劇場

森村泰昌 「ワタシの迷宮劇場」シリーズより 1984‒ ©︎ Yasumasa Morimura

森村泰昌 「ワタシの迷宮劇場」シリーズより 1984‒ ©︎ Yasumasa Morimura

森村泰昌 「ワタシの迷宮劇場」シリーズより 1984‒ ©︎ Yasumasa Morimura

森村泰昌 「ワタシの迷宮劇場」シリーズより 1984‒ ©︎ Yasumasa Morimura

森村泰昌 「ワタシの迷宮劇場」シリーズより 1984‒ ©︎ Yasumasa Morimura

森村泰昌 「ワタシの迷宮劇場」シリーズより 1984‒ ©︎ Yasumasa Morimura

 京都市京セラ美術館の開館1周年記念展のひとつとして、日本を代表する現代美術家のひとり、森村泰昌の個展「ワタシの迷宮劇場」を開催する。京都における1998年以来の大規模個展であり、35年あまり継続されてきた森村の私的世界の全貌を公開する初めての試みとなる。

 森村は1951年大阪市生まれ。京都市立芸術大学で学び、85年に、ゴッホに扮したセルフポートレイト写真でデビューして以降、国内外で作品を発表。美術史における名画の登場人物や歴史上の人物、女優に扮するセルフポートレイトを制作することで、ジェンダーや人種を含んだ個人のアイデンティティの多重性を視覚化し、個人史と歴史の交錯点を表現してきた。

 近年では、ジャパン・ソサエティ(2018)やプーシキン美術館(2017)、国立国際美術館(2016)、アンディ・ウォーホル美術館(2013)、アーティゾン美術館(2021)での個展開催のほか、「横浜トリエンナーレ2014」でアーティスティックディレクターを務めるなど活躍を続けている。

 本展は森村の大規模個展として、秘蔵のインスタント写真500点以上を含む作品から35年超のキャリアを総括する。森村にとってインスタント写真は、アトリエなどの私的空間で行われる儀式の痕跡のようなもの。その私的世界を総覧することで、森村作品をなす35年にわたるバックグラウンドの全貌を浮かび上がらせる。

 さらに、1994年に森村が自作の小説を自ら朗読したCD《顔》の音源をもとに、展示室に特設の音響空間をしつらえ、朗読劇として再制作。会場構成は、青木淳とともに京都市京セラ美術館の大規模リニューアルプロジェクトを手がけた西澤徹夫とのコラボレーションが実現し、新館東山キューブを「迷宮劇場」へと変貌させる。

 名画やファッション雑誌の登場人物、あるいは自由にカメラの前で何者かを演じ、様々な人格に変身して撮影された森村のポートレイト作品。何者かに成り代わることで自己を解体し、一個人における複数の顔を露呈するその表現は、スマートフォンの進化やSNSの普及によって身近になった「自撮り」と共通しながらも、決定的に異なる面をもつ。そこには、自己への透徹した眼差しと、ひとりの人間が複数の存在として生きていくことへの圧倒的な肯定を見ることができる。

 本展はコロナ禍において、改めて自身の制作の原点に立ち返ることでこれからを模索する、森村の現在を提示する。