EXHIBITIONS

廣瀬智央展「奇妙な循環」

2020.06.05 - 07.04

廣瀬智央 The world is yours 2020(1992) Photo by Tarutaruga © Satoshi Hirose

廣瀬智央 無題 (奇妙な循環) 2020 © Satoshi Hirose

廣瀬智央 無題(島) 2008 © Satoshi Hirose

廣瀬智央 無題 (五芒星) 2020 © Satoshi Hirose

廣瀬智央 無題_01 2020 © Satoshi Hirose

 嗅覚を刺激する作品《レモンプロジェクト 03》などで知られるアーティスト・廣瀬智央(ひろせ・さとし)。アーツ前橋(前橋)で開催中の大規模個展(~7月26日)と同時期に、小山登美夫ギャラリーでは個展「奇妙な循環」を開催する。

 廣瀬は1963年東京生まれ。89年の多摩美術大学卒業後にイタリア政府給費奨学生として渡伊し、ポーラ美術振興財団在外研修員としてミラノ・ブレラ美術アカデミーを修了。ミラノと東京を拠点とし、90年代の活動初期より精力的に制作を行ってきた。これまで日本、アジア、イタリアなど世界各地の美術館、ギャラリーでの展覧会に数多く参加。また近年では、母子生活支援施設の母子と空の写真を交換し合う「空のプロジェクト」(前橋、2016〜2035)など、社会との接点を意識し、既存のアート活動を超えた長期的なプロジェクトにも取り組む。

 廣瀬作品のコンセプトの幅は、マクロな視点で地球全体、国や季節を越えて宇宙へも広がる。それと同時に、廣瀬は日々のイタリアの食生活から豊かさや多様性を発見し、異文化間の旅での出会いや対話から共通するささやかな幸せの感覚、生きることのへの意味を見出してきた。そして人工と自然、昼と夜のような、事物の間の領域や小さなもの、周縁にこそ見過ごされがちな豊かな世界があることに目を向け、その表面に現われない、奥にある矛盾や不確定なものをとらえてきた。

 レモンやスパイスを床一面に敷き詰め、視覚や嗅覚、味覚を刺激するインスタレーション、空の写真や細胞が無限に増えていくような「ブルードローイング」、そして豆、パスタなどの食材と、丸めた地図やビー玉、金などをアクリル樹脂のなかに浮かべた「ビーンズ コスモス」シリーズ。日常性を芸術的レベルに移転させ、鑑賞者の五感に強く働きかけることは、廣瀬作品の大きな特徴と言える。

 本展のタイトル「奇妙な循環」は、始まりと終わりが繋がってしまうようなパラドックスの世界や真とも偽とも言えない決定不可能のような、具体的ではない、とらえどころのない世界観をイメージしたもの。展示空間の中では、金や金箔を使った作品、柱の彫刻、本物の豆と木製の豆、カーテンや植物をつかったインスタレーション、トレーシングペーパーを使ったドローイング、曖昧な絵画など、異質に見える個々の作品が互いにゆるやかにつながるように共存する。

 視点を変えることで見え方が大きく変わるこの異質なものの共存は、私たちの社会そのもののよう。鑑賞者は展示空間を回遊しながら、様々な視点や角度から廣瀬が構成した作品世界を体感することができるだろう。