EXHIBITIONS

神馬啓佑「バートルビー」

ARTRO
2024.12.20 - 2025.01.23

photo:Yuki Moriya

 ARTROで、神馬啓佑による個展「バートルビー」が開催されている。

 神馬啓佑は1985年愛知県生まれ、兵庫県育ち。2009年に京都造形芸術大学美術工芸学科洋画コースを卒業、2011年に京都造形芸術大学大学院芸術研究科表現専攻を修了している。

 本展に際して、神馬は次のように述べている。

「僕は、絵を描くこと自体がずいぶん昔から行われていて、それがいまのいままで続いていることにいつも感動を覚えます。そして、何より自分自身が毎日のように考え、悩み続けていることが、その証明になってしまっていることに気づいたとき、自分が絵を描くこともとても大事なことなんだと気づくことができました。だから、まだしばらく絵を描かせてほしいと願っています。

 そういったことから私自身の創作において、これまでのこと(歴史)といまの自分が重なった接点がとても重要な状態と考えています。

『バートルビー』(Bartleby)は、1853年に発表されたアメリカの作家ハーマン・メルヴィルの短編小説です。バートルビーは、『I'm prefer not to』『私はしないほうがいい』という言葉ですべてのことを拒否していく男の物語で、その拒絶は次第にエスカレートしていき、最後には、という寓話的な物語です。その内容の不条理性からブランショ、デリダ、ドゥルーズなどの現代思想家にも様々なインスピレーションを与えていると言われています。

 哲学者のジル・ドゥルーズは、『バートルビー または決まり文句』(『批評と臨床』所収、1989)において、『I'm prefer not to』という決まり文句が『好みでないもの』を忌避すると同時に『好みのもの』までも排除していく破壊的な性格を持つものだと記しています。

 僕も『バートルビー』という人物が持つ『拒絶』という態度やそれにまつわる思想家たちの考えから、自分の創作表現に強く影響を受けました。これまでの創作のなかで、歴史やこれまでのことを強く意識することが多い絵画に傾倒してきましたが、いっぽうで個人の創作表現のなかでは、歴史を踏まえたうえで別の方向性を示さなければならないという感覚がつねにありました。それは、これまでの歴史や宗教画に代表されるような信仰心と、いま生きている現実に対する圧倒的な信頼の対比と言い換えることもできます。この自分のなかに対立するふたつの意志の重なっている状態が、僕自身の絵画であり、僕の創作活動のなかにはバートルビーの拒絶という態度、根本的自己表現と結びつく何かある気がしたのです。

 今回の展示では、『I'm prefer not to』という拒絶の態度を表す言葉から連想される同一性への棄却、二つの対立する物事の意志の重なりなど、言葉から連想される関係性を考える作品を制作することができればと考えています」(展覧会ウェブサイトより)。