EXHIBITIONS
大山エンリコイサム「Abstractions / Extractions」
Takuro Someya Contemporary Artで、大山エンリコイサムによる個展「Abstractions / Extractions」が開催されている。
大山の制作における意味・文脈形成のハイブリッド性に迫る本展では、「extraction(抽出)」という概念を手掛かりに、イメージの抽象化に伴う複雑な手続きを絵画作品を通して展覧。
大山は、都市におけるマーキングと視覚伝達のエフェメラルな手段として、1970年代から80年代にかけてニューヨークで発展したエアロゾル・ライティングを拡張し、独自のモチーフ「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」を通して多様なメディアでの制作に取り組んできた。その中心にある絵画作品では、エアロゾル塗料の多層的な使用により、幾何学的かつ流線的でもあるQTSの形体を起点に、身体の動きが空間と時間へ与えるはたらきを追求。このように制作プロセスを持続的に編み直し、視覚のイディオムを構築していく様子は、様々な地理的・歴史的な時間軸に交渉する大山の思考に連動している。
本展で大山は、抽象の性質そのものを問うように、「extraction(抽出)」の概念に焦点をあて、その実践の基盤をさらに掘り下げる。抽象がしばしば対象を形而上的に昇華させるいっぽうで、「抽出」は、対象から引き出された要素が、もとの対象が持つ文脈を断片的に引き継ぎつつ、同時にそれを再編成し、新たな意味的連関に置き直す。それはまた、論文執筆において全体の大まかな要約を指すアブストラクトと、部分の正確な引用を指すエクストラクトの対比にも重なる。
大山の絵画作品では、前景においてライティングの文字が要素に分解され、QTSに再構成されると同時に、後景においてはエアロゾル塗料とインク、スポンジやスクラブブラシなどの使用から曲線や層状のフォルムが描画されている。これらがマーキングの身体性を強調し、エアロゾル塗料やぼかしの行為が記述するレイヤーを隠しながら露出させ、抽象とジェスチャーの複雑な相互作用を提示する。
後景における強いインク表現は、視覚的には東洋のカリグラフィーを想起させるかもしれない。大山はこうした歴史的な連想をさらに先鋭化させ、書字一般のより身体的な根拠として「筆順」を挙げる。それは反復を可能にする型であり、繰り返される書字の運動はやがて字体を揺さぶり、解放された描線の映像的・聴覚的な広がりをもたらす。
エアロゾル塗料の工業的マチエール、インクの書的・即興的なジェスチャー、そしてペインティングにおける抽象化の内省的なプロセスが、継続性と変化、自発性とコントロールのあいだを行き来し、作品に収束する多面的な対話を織りなす。そして、大山が探求する「抽出」という概念的なツールが、抽象の性質をよりグローバルな枠組みでとらえ直し、様々な地理、文脈、そして学問としての領域に横たわる複数のモダニズム、複数の抽象の響きあいへと観客の省察を促していく。
大山の制作における意味・文脈形成のハイブリッド性に迫る本展では、「extraction(抽出)」という概念を手掛かりに、イメージの抽象化に伴う複雑な手続きを絵画作品を通して展覧。
大山は、都市におけるマーキングと視覚伝達のエフェメラルな手段として、1970年代から80年代にかけてニューヨークで発展したエアロゾル・ライティングを拡張し、独自のモチーフ「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」を通して多様なメディアでの制作に取り組んできた。その中心にある絵画作品では、エアロゾル塗料の多層的な使用により、幾何学的かつ流線的でもあるQTSの形体を起点に、身体の動きが空間と時間へ与えるはたらきを追求。このように制作プロセスを持続的に編み直し、視覚のイディオムを構築していく様子は、様々な地理的・歴史的な時間軸に交渉する大山の思考に連動している。
本展で大山は、抽象の性質そのものを問うように、「extraction(抽出)」の概念に焦点をあて、その実践の基盤をさらに掘り下げる。抽象がしばしば対象を形而上的に昇華させるいっぽうで、「抽出」は、対象から引き出された要素が、もとの対象が持つ文脈を断片的に引き継ぎつつ、同時にそれを再編成し、新たな意味的連関に置き直す。それはまた、論文執筆において全体の大まかな要約を指すアブストラクトと、部分の正確な引用を指すエクストラクトの対比にも重なる。
大山の絵画作品では、前景においてライティングの文字が要素に分解され、QTSに再構成されると同時に、後景においてはエアロゾル塗料とインク、スポンジやスクラブブラシなどの使用から曲線や層状のフォルムが描画されている。これらがマーキングの身体性を強調し、エアロゾル塗料やぼかしの行為が記述するレイヤーを隠しながら露出させ、抽象とジェスチャーの複雑な相互作用を提示する。
後景における強いインク表現は、視覚的には東洋のカリグラフィーを想起させるかもしれない。大山はこうした歴史的な連想をさらに先鋭化させ、書字一般のより身体的な根拠として「筆順」を挙げる。それは反復を可能にする型であり、繰り返される書字の運動はやがて字体を揺さぶり、解放された描線の映像的・聴覚的な広がりをもたらす。
エアロゾル塗料の工業的マチエール、インクの書的・即興的なジェスチャー、そしてペインティングにおける抽象化の内省的なプロセスが、継続性と変化、自発性とコントロールのあいだを行き来し、作品に収束する多面的な対話を織りなす。そして、大山が探求する「抽出」という概念的なツールが、抽象の性質をよりグローバルな枠組みでとらえ直し、様々な地理、文脈、そして学問としての領域に横たわる複数のモダニズム、複数の抽象の響きあいへと観客の省察を促していく。